過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 樹生の整った顔が歪んだ。

「独占したいとは思わなかったってことだよな?」

 だったらそれは愛情じゃないとでも言うのだろうか。どうして彼は苦しそうな顔をしてるのだろう。

「卒業したらアメリカに行くって決まったとき、七海はどう思ってた?」
「もちろん、応援してたよ。樹生さんの夢の一つだったよね」
「もしあのとき、結婚して一緒にアメリカに行ってほしいって言ってたら、今みたいに結婚してくれたか?」

 ほんの少し、彼はうつむいた。下がる前髪に隠れて、どんな表情をしているのかはわからなかった。ただ、絞り出すような声に、苦しんでいることだけはわかった。

「あのときと今は違うから」
「どう違う?」
「今だってあんまり現実味がないけど、学生のときだったら夢みたいすぎて、考えられなかったと思う」
「でも俺たちは、結婚してる」

 昔はダメで、いま受け入れたのはなぜなのか。そう聞いているのだろうか。彼は何かに葛藤している。

 顔をあげた樹生は、頼りなく眉をさげていた。こんなに自信のない彼を見るのは初めてだった。

「それは……必要だったからで」

 そう言いながら、引っかかっていた。本当に、結婚する必要はあったのか。ついさっき、それを考えていたばかりだ。

「七海……、どうしたら俺は実感できる?」
「何を……?」
「七海が俺を好きだって。ちゃんと結婚してるんだって現実をだよ」

 樹生がさらに顔を近づけてくる。重なった手のせいで逃げ場を失っている七海の唇に、彼の唇が重なった。

 そのまま、背中に腕を回されて抱きすくめられる。唇を重ねたくて重ねている。はっきりと、その強い意志を感じた七海は、びっくりして彼の胸を押し返していた。

「からかった……の?」

 樹生は大きく息をのんだ。

 好きでもない人にキスするような人じゃない。わかっているのに頭が混乱して、言ってはいけない言葉で彼を傷つけた。

「……疲れてるみたいだ」

 彼はつぶやくと、目を伏せたまま部屋を出ていった。
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