過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜



 樹生は洋一社長と昼食を摂るからと、ひと足先に副社長室を出ていった。

 いつもはお弁当を持参しているが、今日は作る気がしなくて何も用意していなかった。かといって、社員食堂に行く気にもなれない。

 社内コンビニで何か買ってこようと思い立ち、エレベーターで一階まで降りると、コーヒーとお弁当を両手に持った涼太がコンビニから出てきたところだった。

「珍しい。小塚もコンビニ?」

 財布を握る手に視線を向けて尋ねてくる。

「島岡くんこそ」

 友澤ビルディングは泥臭い対面営業を重視していて、昼時に営業が社内にいる方が珍しい。

「あ、俺? 俺はもう、デカい案件とったからさ、あとはリモートで契約の承認やるだけ。いいだろー。どこと契約したか知りたいか?」

 得意げな表情で、質問を強要してくる。これはいつものことだ。正直、面倒ではあったが、興味が湧いて聞いてみた。

「どことの契約?」
「ふふん。友澤ビルマネジメントだよ。やっぱりさ、子会社との契約はデカいし、楽だよな。いつもは先輩に取られちゃう契約なんだけどさ」
「どんな案件なの?」

 努めて冷静に尋ねてみたが、心配にかられるように胸がざわついていた。

 子会社である友澤ビルマネジメントとの契約は駆け引きを必要としないものが多い。まだ入社三年の彼に楽な営業が回ってくるのは不自然に感じたのだ。

「ほら、最近、あっちこっちの駅前に新築ビル建ててるだろ? その研修費用の件だよ。ああいうのは、前例を踏襲するだけだから、楽すぎでさ」
「それをどうして今回は島岡くんが?」
「先輩がそろそろおまえもやれよって、今回は譲ってくれてさ」

 涼太はうれしそうに話してくれるが、どんどん嫌な予感だけが膨らんでいく。

「親切な先輩だね」
「新入社員のときから面倒見てくれてる先輩だから」
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