過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
「目をかけてくれてるんだね。なんていう名前の先輩なの?」
「なに、小塚、先輩に興味あんの? 新婚なのにすみに置けないなー」

 にやにや笑う涼太は、いつもより上機嫌だった。人の気も知らないで、軽々しい発言すら笑って受け流してくれるだろうと思っているみたいで不快だった。

「優しい人もいるんだなって思っただけ」

 素っ気なく答えたが、彼はひるまなかった。

「だよな。松尾(まつお)先輩っていうんだけどさ、会ってみたかったら繋げてやるぜ」
「そういうのは興味ないから」
「なんだよ、冷たいなぁ。ほんとに小塚、よくそれで結婚できたよな。旦那さん、よっぽど懐深いんだな」
「どういう意味?」
「そのまんまの意味だよ。こうやって話しててもさ、全然俺に興味ないのバレバレだぜ」
「そんなことないよ」

 そもそも興味がなかったら聞いたりもしない。そんなふうに受け取られてるなんて思ってもなかった。

「……あ、そう。じゃあ、俺の勘違い? ま、小塚は素直でいいやつだからな。ちゃんとおまえのこと見て、好きになってくれる男に出会えてよかったよ。じゃあ、俺行くからさ、またな」

 ひとしきりしゃべった涼太は、ようやく満足したのか、かかとをひるがえす。

 何目線で話してるつもりだろうかと、あきれてしまっていたが、去りかける背中に声をかけた。

「気をつけてね」
「なんだそれ」

 彼もあきれ顔をして、首をひねりながらエスカレーターの方へ向かって歩いていった。

 樹生が副社長室に戻ってきたのは、十三時を二十分すぎたころだった。

 聞きたいことも話したいこともたくさんあったが、樹生は友澤善則親子の出迎えに立つようにとだけ指示すると、すぐに社長室へと行ってしまった。
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