過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 受付から善則親子の来訪を知らせる電話が入り、先輩秘書とともに、応接間の前に立ったのは、約束の時間の五分前だった。

 ほどなくしてエレベーターのドアが開き、中年の男と痩身の青年がやってきた。横柄な歩き方の男は善則で、そのすぐ後ろを歩くのが宏弥だろう。宏弥に会うのは初めてだった。

「お待ちしておりました。ご案内いたします」

 先輩が彼らに挨拶をする間、七海は軽くまぶたを伏せて頭を下げていた。そうするだけでこの場をやり過ごすことができるはずだった。

 しかし、先輩のひとりがドアを開け、もうひとりが善則を応接間の中へ案内しようとしたとき、宏弥の靴先が向きを変え、こちらに近づいてきた。

 思わず、身構えるように肩に力が入ってしまう。宏弥がそれに気づいたかどうかはわからない。

 目をあげようとすると、耳もとにグッと顔を近づけられたのがわかった。

「優秀な秘書が四六時中一緒にいるなんて、あいつも心強いんじゃないか。……まあ、威張ってられるのも今のうちだけだろうけどな」

 それは明確な敵意だった。顔をあげたときには、宏弥の背中が応接間の中へ消えていた。

 強気な発言からすると、本郷本部長の処分をまだ知らないのだろう。しかし、水増し発注の件が樹生によって糾弾されたことは知っているはずだ。

 今は樹生の鼻を明かすために画策してる最中だろうか。だとしたら、やはり、涼太の話が気になった。

 水増し発注の契約を締結した営業は誰だろう。もし、それが松尾という社員なら、自分で契約した不正を涼太になすりつける可能性はあるだろうか。

 考えすぎかとも思ったが、嫌な予感だけがつきまとった。
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