過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 善則親子が帰宅したのは夕方になってからだった。樹生はそれからすぐに副社長室へやってきたが、「今日はもう帰っていいから」とだけ声をかけてきて、また出ていってしまった。

 ろくに話す時間もないまま、ひとりで帰宅した。玄関を入ると真っ暗なリビングに出迎えられた。慣れた景色が広がっているのに、やけにさみしく感じる。

 彼と別れたら、これがまた日常になる。誰もいないアパートに帰る日が始まるなんて耐えられるのだろうか。

(期間限定の結婚だって言ってたけど、いつまでだろう)

 樹生の脅威がなくなったとき。そう思っていたけれど、彼の地位を揺るがそうとする勢力というのは、次から次へと現れるんじゃないだろうか。

「樹生さんはいつまでって思ってるんだろ」

 つぶやきながら、お風呂へ向かった。

 おそらく今日、樹生の帰りは遅くなるだろう。何か食べる気も起きないし、ひどく眠たい。お風呂に入って、もう眠ってしまおう。

 湯を張った湯船に身を沈めて、目を閉じた。

 樹生に会ったら何から話そう。謝らなくてはいけないし、涼太の話も気になっていた。善則親子の対応で忙しい彼を煩わせたくもない。

 何のために結婚しているのだろう。そんな疑問を投げかけたくもない。好きだから一緒にいたい。それだけなのに、彼は正当な理由が欲しそうでもあった。どう話したら、長く一緒にいられるのだろう……。

 湯船のふちに腕を引っかけて、顔を伏せているうちにうとうとしてしまっていた。このままだと眠ってしまいそうだ。

 立ち上がったら、くらっとした。のぼせたかもしれない。壁に手をついて、ドアを開けた。その瞬間、真っ暗闇に落ちていった。
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