過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 居酒屋ハルはすぐに見つかった。学生たちが気軽に集えるようなカジュアルな店構えは昔と変わっていない。

 誰もが羨望する大企業で働く今の樹生には似合わないんじゃないか。その上、お互いにおしゃれしてきている。すぐに店選びを間違えたことに気づいたが、彼はいっこうに気にする様子なく、のれんをくぐった。

 店内は若者が多く、店主と客の気軽な会話が飛び交い、ほぼ満席で雑然としていた。店主は若く、三年前とは違う人だった。どことなく、ほっとした。気のいい中年の店主のままだったら、きっと樹生を覚えていただろう。その隣にいる女性としてふさわしくない自分がどう扱われるか考えると、気が重たかったのだ。

 樹生はかろうじて空いていたカウンター席に座ると、店内をさりげなく眺め、「懐かしいな」と静かにつぶやいた。

「混んでるね。違うお店じゃなくてよかった?」
「たまにはこういう店も悪くない」
「あ、そうだよね。いつも高級レストランに行ってそう」

 ますます引け目を感じて愛想笑いを浮かべると、樹生は少しも笑わないで、「仕事だから」とだけ言った。中身は大学時代と何も変わってない。そう言ったみたいだった。

「なんか……、ごめんね」

 自嘲(じちょう)するように目を伏せたが、彼は無言でメニュー表を広げた。

 さっきから感じていたが、彼はささいな気まずさにいちいち反応しない。触れないでいてくれる優しさなのか、それともこちらの私情に関与したくないという拒絶なのか……。

「なに飲む?」
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