過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
「じゃあ、生ビールで」

 メニューを見るまでもなく答えた。会食の場で、一杯目に悩むのは時間の無駄だ。樹生が意外そうに眉を動かしたから、すっかり秘書モードを発揮していた自分に気づいた。

「秘書、やってるんだっけ?」

 注文したビールが運ばれてくると、彼はそう尋ねてくる。

「なんで知ってるの?」
「友澤ビルディングに就職したって、同期のやつらが話してたよ」
「みんな、そんな話するんだね」

 すっかり驚いていた。うわさにあがるほど、自分に存在感があるとは思ってなかった。

「七海なら、もっと大手に就職できたんじゃないかって言ってたやつもいたよ」
「そんなことないよ。条件のいい会社で、すごく気に入ってるし」
「へえ。どんなふうに?」

 初めて、樹生がこちらに顔を向けた。こんな話に興味があるんだろうか。

「名のある会社だから両親は安心してるし、都内にアパート借りても困らないぐらいお給料もらえてるしね。社長も怖くないし、先輩だって優しいし。同期も人数いないから変なことにもならないし……」
「変なことって?」
「あんまりつながりがないから、会社以外で会おうとかってノリがないっていうか」
「なるほど。大学時代と変わらないような生活ができてるわけか」
「あ、そうだね。簡単に言うと」

 やっぱりこんな話、面白くないだろう。新しいことに挑戦してるわけでもなければ、誰かに話したいほど刺激的な毎日を送ってるわけでもない。

「樹生さんは? ずっとアメリカにいるの?」
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