過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 最初は似ている人かもしれないと思って声をかけてみた。彼女は知らない男に話しかけられたことにひどく驚いていたが、話すうちに笑顔を見せてくれるようになった。

 女子高生だったころより、ずいぶん大人びていたが、その笑顔はあのころと変わってなくて、彼女だと確信した。希望のゼミを聞いて、自分も同じように申し込んだ。

 それからは、友人に「あからさまだな」と笑われるぐらい、七海と過ごすようにしていた。理由をつけては彼女を助けた。彼女は親切だと思っていたようだが、周りだけは下心だと気づいていた。

 何度か告白しようと思ったが、就職が決まると、おじけづいて言えなかった。一緒にアメリカに行ってくれるわけはないし、付き合えたとしても、何千マイルも離れた恋愛が、うまくいくわけないと思っていた。

「俺は……どこで間違えたんだろうな」

 アメリカに行くと決めた日か?
 七海に結婚を提案した日か?

 ぎゅっと両手で握りしめた七海の小さな手に、ひたいを押しつけた。

 こんな結婚生活を望んでいたわけではなかったのに。

「……い、つき……さん?」

 黒くて丸い瞳がこちらをじっと見つめている。

「七海……」
「ここ……、あれ……?」

 七海は見慣れない部屋の中へ視線を動かす。

「風呂で倒れてたんだ」
「……あっ、のぼせちゃって」

 恥ずかしそうにブランケットを引き上げて顔を隠す彼女に、盛大なため息が出た。

 もぞもぞと体を動かす彼女が、みるみるうちに青ざめていく。パッとブランケットの中をのぞいて、唇を震わせた。

「み、……見たの?」
「そういう目では見てない」

 真顔で答えたら、七海は真っ赤になって頭からブランケットをかぶってしまった。

「それどころじゃなかったんだ。七海が倒れてるのを見て、俺がどれだけ心配したか」
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