過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 まだ離したくなさそうに腕をつかんでくる彼の手を、なだめるようにするりと外し、バスルームに駆け込んだ。

 ヒリヒリと痛むひざを丁寧に洗って、パジャマに着替えてリビングに行くと、樹生が救急箱を用意して待っていた。

「本当に、樹生さんはマメだね」
「当たり前のことをしてるだけだよ」
「私が頼りないから、すごく気にしてくれてるんだよね」

 ソファーに腰を下ろすと、足元にかがんだ彼が、パジャマのすそを持ち上げた。

「好きな女性だからだよ」
「……好き、なの?」

 彼は顔をあげて、愉快そうに眉を下げた。

「今まで気づかなかったみたいな顔するんだね。好きでもない女性とキスなんかしないよ」
「でも……、大学のときも優しかったし」
「あのときには好きだったからね」
「……そうなの?」

 あまりの驚きで、きょとんとしてしまった。全然気づかなかった。

「三年……三年は重いって言ったよな」

 すりむけたひざの傷に消毒液をそっと塗ってくれながら、彼がつぶやく。

「会えない間の三年は長かったよ。なんで、気づくと樹生さんのこと考えてるんだろうって思ってた。おかしいよね。全然会えない人なのに」
「俺はもっと長かったから……。三年で重たいなら、俺はもっと重たいと思ったんだ」

 首をかしげると、傷口に大きめのばんそうこうを貼ってくれた彼は、隣に腰かけてくる。

「俺の重たさに耐えられるだろうか。七海はいつか、逃げ出したくなるかもしれない……って、慎重になったよ」
「そんなふうに考えなくてもよかったのに」
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