過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
「いや、日本に帰ってきたよ」
「会社、やめたの?」
「半年前にね。もともと起業するつもりだったし、別に驚くようなことじゃない」

 退社は予定調和だったと言わないばかりの彼は、生ビールを口に運んだ。その品のある飲み方といい、起業の夢といい、自分とは住む世界が違うんだって、改めて思い知らされる。

「このお店、やきとりがおいしかったの覚えてる。食べていい?」
「やきとりしか食べたことないんじゃないか?」

 彼は小さく笑う。卒業前の打ち上げで、七海がやきとりにしかありつけなかったことに気づいていたんだろう。

 たしかあのときは、彼がわざわざ小皿に取り分けてくれたサラダを、同期が酔った勢いで食べてしまい、居心地が悪かったのを覚えている。

「おすすめ、頼んでいいか?」
「あ、うん。好き嫌いはないから」
「飲み物は好きなの選んで」
「じゃあ……、フルーツサワーにする」

 いちごにキウイ、いろんなサワーがある中からレモンサワーを選ぶと、彼はやきとりの盛り合わせに刺身、シーザーサラダ、ゆず味噌の冷やっこを注文してくれた。
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