過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
「私がちゃんと気持ちを伝えなかったから、樹生さんも不安だったんだよね。私は……、結婚しなかった樹生さんのお母さんの気持ちはわからないけど、結婚するって決めたなら、逃げ出したりしない」
「……わかってる。責任感が強いのは、わかってた。俺が臆病なだけだったんだ」

 樹生は後悔の形をそう語った。ならば、自分の後悔はどんな形をしていただろう。やはり、アメリカへ向かう樹生に何も言えなかったことだろうか。

「樹生さんと付き合えるなんて思ってなかったから、告白しようと思ったこともなかった。アメリカに行く前に、ちゃんと言えてたら、違ったのかな」
「違ったかもしれないが……、後悔するのはお互いに今夜でやめよう」
「私……、全然後悔してないよ。樹生さんと結婚したこと」
「俺もしてない。一生、後悔しない自信があるよ」

 わだかまりを解かすように、どちらからともなく唇を合わせた。

「落ち着いたら、結婚式をしよう」

 耳元で樹生がそうささやくから、胸に顔をうずめてうなずいた。しばらくそうして抱きしめられていたが、彼は髪をかきあげてくると、耳たぶに口づけをした。

「俺もシャワー浴びてくるから、ベッドで待っていて」

 どんな顔をしているのか、どんな顔をさせているのかわからないまま、樹生はソファーを離れていった。
< 72 / 80 >

この作品をシェア

pagetop