過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜



 誰かの呼吸や鼓動を聞きながら目覚めるのは、いつぶりだろう。ひどく安心して心地がいい。この感覚。あれは、そう。小学生のときに飼っていた──

「猫みたい……」
「誰が猫だって?」

 頭上で聞こえた低い声に驚いて、まばたきをした。抱きしめるように肩に回る腕が、素肌に触れている。一気に現実に引き戻されるような強烈な目覚めに襲われて、顔をあげた。

「樹生さん……」
「いつ起きるかなって待ってたよ」

 ひたいにそっと口づけする彼は、愉快そうに目を細める。

「樹生さんも今、起きたとこ?」
「いや。朝から親父が電話してきたから、朝ごはんも作っておいたよ」
「それでまた、ベッドに入ったの?」
「いけなかったか?」

 いたずらっぽく笑った彼は、じゃれるように前髪に触れてくる。

 やっぱり猫みたい……そんなことを考えていると、彼がぽつりと言う。

「祖母が来るらしいよ」
「結婚の報告……するの?」
「それもあるが、どうも、宏弥が祖母に泣きついたみたいだ。俺が会社をかき回してるって。祖母は怒り心頭で、今日にでも会社へ来るらしい。こんな形で紹介するのは気が引けるが、七海にも同席してもらいたい」
「のり子取締役は宏弥さんを好ましく思ってるんだね」

 というより、樹生に対して厳しいのだろうか。彼は洋一社長の息子ではあるが、加賀を名乗ってきた。友澤の人間として認められていないのかもしれない。
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