代理意趣返し。
     *


「三年間、お世話になりました」
「いいえ、こちらこそ。千葉くんなら大丈夫だって信じてるよ、向こうでも頑張ってね」

 かけた言葉に偽りはない。心からそう思っている。
 だが、目の前の男にはそうは伝わらなかったらしい。

 急遽決まった転勤、それも本社へ。
 受け取り方次第では、十分に栄転と考えられる内容だと思う。そういう意味合いを含ませて口に上らせた言葉だったが、千葉の表情は一向に晴れない。

 数歩先を歩く千葉の後を追うようにして向かった先は、従業員用階段の踊り場だった。

 あえてこの場所を選んだのなら、こいつの意図は明白だ。
 面倒だ。踵を返したくなったが、千葉が沈黙を破る瞬間を黙って待つ。やがて千葉は意を決した様子で顔を上げた。

「あの」

 低い声が聞こえ、こちらも伏せ気味にしていた視線を上げる。
 俺とほとんど背丈の変わらない千葉が、なぜか普段よりも小さく見えた。

「ん?」
「可……安藤のことなんですけど、どういうつもりなんですか? 主任があんなことをするなんて想像もしてなかったんですが」

 千葉の声は、次第にこちらを責めるような調子に変わっていく。
< 12 / 20 >

この作品をシェア

pagetop