代理意趣返し。
 そうすれば、被害者顔をしたままで、この針の筵から逃げ出せたのに。

「笑わせんな。もう違うだろうが」
「あ……っ」
「俺のせいにしたいわけ? 違うだろ。お前が他の女に手ェ出したからだ。お前が泣かせてあそこまで傷つけた、違うか」

 そう。
 文字通り、針の筵。

 こいつには、すでに社内での居場所がない。
 河本、だったか……こいつの浮気相手が、あの後すぐあの日起こったことを暴露したからだ。簡単だった。ほんの少し揺さぶりをかけただけで、河本はおどおどとこちらの提案に応じた。

 厳密に言えば、俺が取った行動のすべてはこの男を標的にしてのものではなかった。彼女を――可奈を、悪意ある視線や噂から守るためという意味合いのほうが遥かに大きかった。
 だが、そんな詳細はもうどうでもいい。こいつを可奈から引き離すことに成功した今となっては。

 笑いが止まらない。
 今の俺の醜悪な笑顔さえ、他の部下や社員には〝部下の新しいスタートを応援する上司〟に見えてしまうに違いなかった。職場という、ほぼ毎日同じ連中が顔を突き合わせるような箱の中にあっても、案外誰も人の本質なんて見てはいない。
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