代理意趣返し。
     *


 こういうときは、仕事に没頭するに限る。
 昨日、恋人の浮気現場を目撃してしまった私は、定時直前になってから申し訳なさそうに残業の依頼を告げてきた上司へ、もはや感謝したい気持ちでいっぱいだった。

 時刻は午後七時四十分。
 オフィスの二階、一角のデスク群に、現在腰を下ろしているのはふたり。
 私と、私に残業の指示を出した(しい)()主任だけだ。

 椎名主任は、私の直属の上司ではない。
 課こそ一緒ではあるけれど、彼がまとめているのは翔太を含めた数人の部下で、そこに事務業務を中心に任されている私は含まれていない。

 そんな彼が名指しで私に残業を指示した理由は、〝部署内で事務業務の知識がある社員に、どうしても今日中に手伝ってもらいたいことがあるから〟というものだった。

『本当にごめんね』
『ギリギリになってから〝残業してくれ〟なんて』

 何度も頭を下げる主任に『構いませんから』と返すのも、もう何度目か分からなかった。

『そのほうが気楽なので』

 何度目かの返事の際、うっかりそう口にしてしまい、そこからはなし崩し的。
 昨日のできごとを彼に明かす羽目になったのは、今からほんの十分ほど前の話だ。
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