代理意趣返し。
 私と翔太が付き合っていることは、社内の大半の人が知っている。
 任されている仕事に違いはあっても、私たちは配属されている課が同じだ。翔太の直属の上司である椎名主任も、私たちの関係を知らないということはないと思う。

 温厚で有名な椎名主任も、自分の部下を悪く言われたらさすがに気を悪くするだろうか。
 不安に襲われつつも、吐き出すように昨日の一部始終を話し終えた私には、もう瞼から零れ落ちる涙を拭う気力さえ残っていなかった。

 そっと差し出された紺色のハンカチに、ほとんど押しつける形で目頭をくっつける。

安藤(あんどう)さん」
「すみません、私、仕事中にこんな」
「……いいえ」
「うう……だって、社内で……誰かが見てるかもって、私が見てるかもって、どうして思えないのかなって」

 椎名主任はなにも言わない。
 だからこそ、衝動的に動く口を止めることはますます難しくなる。
 次から次へと、恨みがましい言葉ばかり溢れてしまう。

「しかも壁ドンなんて……私、そんなの、ドラマとか漫画とかだけの話だと思ってました」
「……うん」
「最悪です、……なんで私がこんな惨めな気持ちにならなきゃいけないの……」

 鬱屈とした言葉を途切れ途切れに紡いでは、ハンカチへ両目を押しつける。
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