代理意趣返し。
 ひくひくとしゃくりあげながら泣き続ける私には、そのとき、すぐ隣に座る主任がどんな顔をしていたのか見えていなかった。

 嗚咽が途絶えた隙を狙ってか、彼の穏やかな声が鼓膜を揺らす。

「ねぇ安藤さん。千葉に裏切られたこと、そんなに悔しい?」
「っ、当たり前です!」
「そう。じゃあ、仕返ししてみたら?」

 一瞬、聞き間違いかと思った。
 穏やかな声と懸け離れた物騒な言葉が聞こえた気がして、私はハンカチに埋めていた顔を上げた。けれど視線の先には、普段と変わらず穏やかに微笑む主任の顔があるだけだ。

 なんだ、今の。
 やっぱり私の聞き間違いだろうか。

「はい?」
「ね? せめて気分だけでも晴らせばいいよ。例えば、千葉たちと同じことしてみちゃったりとか」
「な……そ、そんなの、誰と」
「決まってるだろ」

 最後の言葉だけ、まるで別人のようだった。
 それを耳にしてようやく、私は、主任からの〝提案〟が聞き間違いではなかったのだと悟った。

 放たれた声には、普段の穏やかな彼のそれからは想像もつかないくらいの獰猛な気配が宿っていた。
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