代理意趣返し。
「ん、ぅ……っ!」

 とんでもないことをされている。
 けれど、深い混乱に沈み込んだ私の頭では、まともな考えなどもうとても巡らせられなかった。

 唇を緩くなぞるだけだった口づけは、触れては離れ、離れては触れてを何度か繰り返した後、熱の絡み合う深いそれへと変わっていく。

 なんだ、このキス。
 こんなキスは知らない。
 私が知っているのは、こんな……こんなものでは、なくて。

 不意に脳裏を過ぎったのは、私を裏切った元恋人の顔だった。
 今日は、業務中にすら言葉を交わすことがなかった。明らかに私を避けるような素振りばかり見せていた。そんな翔太の顔が、昨日目撃した他の女とのキスシーンに繋がるまで、時間はほとんどかからなかった。

 否応なしに脳裏で再生される悪夢めいたシーンを掻き消すように、口づけが突如激しさを増した。

 私の考えが透けて見えてでもいるのか、と訝しくなるほどのタイミングだった。
 不穏な記憶が頭を満たしそうになる直前、唇の動きを深められ、私はそれがもたらす熱にあっけなく溺れさせられてしまう。

 両目をきつく閉じた瞬間、瞼から、涙がひと粒零れ落ちた。
 頬を伝うそれを、口元から離れた主任の唇がすかさず辿ったさまが、見えていなくても理解できた。
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