代理意趣返し。
「さあね。タチの悪いネズミでも見てたんじゃない?」

 穏やかに笑む椎名主任の人差し指が、頬を離れ、横の壁に貼りつけられたホワイトボードへ向いた。
 その動きに操られるかのように、首を横へ向けて彼の指先を辿る。ボードに書かれている走り書きの文字を視界に収め、そして息を詰めた。

 個々の出勤や外出状況を記すためのホワイトボード。
 椎名主任が指差しているのは〝千葉〟の欄だった。

〝外出 長谷川商事 20:00〟

 青色の水性マーカーで書かれた文字が、ゆっくりと頭に入り込んでくる。
 弾かれたように対面の壁にかかった壁時計を見ると、時刻は午後八時を少し過ぎたところだった。

「……主任」

 カタカタと音がするほど震える唇から、掠れた声が零れ落ちる。

「まさか、全部、知って」
「さあ? 俺はただ、千葉に仕事を頼んで、直帰しないで戻ってきてくれって指示を出しただけだよ。帰社後に見せたいものがあったから」

 見せたいもの。
 それは、一体なに。

 まさか。
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