君の隣は、呼吸ができる
試合が終わり、コートのあちこちで笑い声が上がった。

「緑のタオルの人、かっこよかったー」

「わかるー! 背高い人だよね」

私の後ろで、女の子たちの弾んだ声が遠ざかっていく。

(真樹のことだ!)

思わず口元が緩む。

真樹は昔から、静かなんだけど目立つ。
中学生の頃、すごくモテていたのは覚えている。
高校も大学も、どんなふうに過ごしていたのか私は知らない。
でも、常に視線を集めていたと思う。

真樹が人から褒められると嬉しい。
ニヤけていると、真樹がタオルで汗を拭きながら、こちらに向かってきた。

「若葉、これ。こっちの方が冷えてるから」

「あ、ありがと……!」

差し出されたスポーツドリンクを受け取る。
ほんの少し指先が触れただけで、なぜか胸が小さく跳ねてしまった。

真樹は眩しそうに目を細めて笑う。
そして、「じゃ、あとで」と言って、仲間たちのところに走って行った。

「……真樹くんって、相変わらず過保護だね」

隣の友だちが、遠くを見ながら呟いた。

「え、そうかな?」

思わず聞き返すと、友だちは何度も頷く。

「若葉のことばっかり心配するよ?」
「しかも、ますますね」

友だちが笑い出した。

両手で握りしめたペットボトルを見つめる。
表面に浮いた細かな水滴が指先に触れて、キンと冷えた感触が心地いい。

「それは……私たちが幼馴染だからだよ」

そう答えると、友だちがにやりとした顔を向ける。

「というか、家族みたいに見えるけどねぇ」

茶化すような言い方に、私は曖昧に笑い返すしかなかった。


周りから見れば、私たちはいつも通りなのだろう。

(それは良かった……なのかな?)

先日の出来事も、真樹が引っ越すかもしれないことも。
このまま知らないフリを続けていれば、変わらないでいられるのかもしれない。

(……家族……)

嬉しいはずなのに。

ほんの小さな違和感が消えない。

ひんやりとしたペットボトルを、火照った頬に押し当てた。
熱がスッと引いていくのを感じながら、仲間たちと笑い合っている真樹の姿をじっと見つめた。
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