君の隣は、呼吸ができる
真樹と駅前で別れて十分ほど歩くと、複数の企業が入るオフィスビルに着く。
うちの会社がある二階フロアは、まだ人の姿も少なくて静かだ。

共有スペースから、掃除機を持った清掃員さんが出てきて目が合った。

「おはよう若葉ちゃん。相変わらず早いわねー」

「おはようございます!」

「あらあら、それどうしたの!?」

少し身を屈めて、心配そうにおでこを見られる。

「あはは、それが……」

駅での災難を話すと、「痛いの痛いの飛んでいけー」と言いながら、おでこをさすってもらった。


短大を卒業してから、入社して五年目。

すっかりビルの清掃員さんとも仲良くなって、今では下の名前で呼ばれるようになった。

私の背が低いからか、何かと子どもを相手にするような扱いをされている気がする。


「それで、今日もお兄ちゃんと来たの?」

(……お兄ちゃん……)

またか、と小さく肩を落とした。

「……ええ、はい」

「仲良しねー」

こういう時は、苦笑いしかできない。
私は軽く会釈してから事務所に入った。


前に、真樹と一緒にいるのを目撃されたことがある。

詳しくは忘れたけれど、また今日みたいに何かと真樹に世話を焼いてもらっていて。
身長差があり過ぎるからか、私たちが兄妹に見えたらしい。

仲良しに見られているのはいいとして。
気になるのは、私が『妹』に見られたこと。

「私の方が、先に社会に出たのにな……」

自分のデスクにドサッとカバンを置く。

ブラインドの隙間から差し込む朝の光が、誰もいないデスクの列を白く照らしていた。

「誕生日だって私の方が早いのに」

まだ自分しかいない事務所で、誰に届くでもない不満を呟く。

――でも。
私自身、年齢よりも子どもっぽい自覚があるから、そう思われても何も言えない。


今日は姉と姪っ子が泊まりに来る日だから、残業したくない。
小さく息を吐いて気持ちを切り替えると、仕事の準備に取りかかった。
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