君の隣は、呼吸ができる
第2話 結婚したい
朝の静けさは一瞬のことで、それからは慌ただしく一日が過ぎる。
なんとか仕事を終えてスマホを見ると、真樹も珍しく定時で上がるらしい。
『一緒に帰ろう』と返信して、急いで駅に向かう。
見上げると、空はまだ明るくて夏の気配を濃く感じる。
立ち並ぶビルのガラスが、夕陽を浴びてオレンジ色に輝いていた。
今日の社内は、社員同士の結婚ニュースで持ちきりだった。
結婚する女の子は同期で、私と同い年。
休憩時間にお祝いを言いに行くと、二人は幸せそうに微笑んだ。
旦那さんの目の高さくらいに彼女の頭がある。
それが、すごくお似合いに見えた。
駅に着いて、真樹を待つこと数分。
外回りから戻る会社の先輩にバッタリ会った。
「ちょうど良かった」と、小さな紙袋を渡してくれる。
取引先からのお裾分けらしい。
人気店のお菓子だと知って、私は満面の笑みでお礼をした。
「……若葉?」
先輩に手を振っていたら、真樹が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「真樹、お疲れさま!」
ようやく会えたのが嬉しくて、思わず声が弾む。
「ああ、うん……」
少し疲れているように見えたけれど、私は気にせず紙袋を持ち上げた。
「ねえ、見て!」
カサリと紙袋が揺れる。
「有名なお店のマドレーヌを貰ったよ。
期間限定のレモン味なんだって!」
ハートと鳥が描かれたお店のロゴを指差しながら笑う。
「真樹にも分けてあげ……」
「いや、俺はいいよ」
真樹はスッと目を細めて紙袋を見ると、首を横に振った。
「え?」
言い切る前に断られたので、軽く驚く。
真樹は黙り込んでしまった。
私の手元で揺れる紙袋を見つめたまま、何も言わない。
「そっか……」
なんだか、一人ではしゃいでいたみたいで、恥ずかしくなってしまう。
胸の前に紙袋を抱え直して、視線をさまよわせた。
そんな私を見て、真樹がゆっくり口を開く。
「待たせてごめん。……じゃあ、帰るか」
そう言って、表情を和らげた。
「うん……」
私たちは、駅に入っていく。
朝ほどではないけれど、混み合う駅内。
行き交う人の中、一歩前を歩く真樹。
横顔をチラリと見上げると、すぐに気付かれて目が合う。
――金曜日だからか。
今日は、駅内の飲み屋に向かう人が多い。
団体が近づいてきたので、真樹が無言で肩を引き寄せてくる。
「ありがとう」
お礼を言うと、真樹は視線を落として小さく微笑む。
そしてすぐに目をそらして前を向いた。
やさしいのに。
どこか不機嫌に見えた。
なんとか仕事を終えてスマホを見ると、真樹も珍しく定時で上がるらしい。
『一緒に帰ろう』と返信して、急いで駅に向かう。
見上げると、空はまだ明るくて夏の気配を濃く感じる。
立ち並ぶビルのガラスが、夕陽を浴びてオレンジ色に輝いていた。
今日の社内は、社員同士の結婚ニュースで持ちきりだった。
結婚する女の子は同期で、私と同い年。
休憩時間にお祝いを言いに行くと、二人は幸せそうに微笑んだ。
旦那さんの目の高さくらいに彼女の頭がある。
それが、すごくお似合いに見えた。
駅に着いて、真樹を待つこと数分。
外回りから戻る会社の先輩にバッタリ会った。
「ちょうど良かった」と、小さな紙袋を渡してくれる。
取引先からのお裾分けらしい。
人気店のお菓子だと知って、私は満面の笑みでお礼をした。
「……若葉?」
先輩に手を振っていたら、真樹が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「真樹、お疲れさま!」
ようやく会えたのが嬉しくて、思わず声が弾む。
「ああ、うん……」
少し疲れているように見えたけれど、私は気にせず紙袋を持ち上げた。
「ねえ、見て!」
カサリと紙袋が揺れる。
「有名なお店のマドレーヌを貰ったよ。
期間限定のレモン味なんだって!」
ハートと鳥が描かれたお店のロゴを指差しながら笑う。
「真樹にも分けてあげ……」
「いや、俺はいいよ」
真樹はスッと目を細めて紙袋を見ると、首を横に振った。
「え?」
言い切る前に断られたので、軽く驚く。
真樹は黙り込んでしまった。
私の手元で揺れる紙袋を見つめたまま、何も言わない。
「そっか……」
なんだか、一人ではしゃいでいたみたいで、恥ずかしくなってしまう。
胸の前に紙袋を抱え直して、視線をさまよわせた。
そんな私を見て、真樹がゆっくり口を開く。
「待たせてごめん。……じゃあ、帰るか」
そう言って、表情を和らげた。
「うん……」
私たちは、駅に入っていく。
朝ほどではないけれど、混み合う駅内。
行き交う人の中、一歩前を歩く真樹。
横顔をチラリと見上げると、すぐに気付かれて目が合う。
――金曜日だからか。
今日は、駅内の飲み屋に向かう人が多い。
団体が近づいてきたので、真樹が無言で肩を引き寄せてくる。
「ありがとう」
お礼を言うと、真樹は視線を落として小さく微笑む。
そしてすぐに目をそらして前を向いた。
やさしいのに。
どこか不機嫌に見えた。