君の隣は、呼吸ができる
そして、真樹が彼女の近くに並んで立つ。

「……っ」


背の高さも。華やかなところも。

二人が並んだ姿は……。

私が思い描く、理想の――


(……や、だ……)


これ以上、二人を見るのは無理だった。
思わずうつむいて、目を閉じる。


その瞬間、清掃員さんの言葉が頭の中で蘇った。

『こんなに可愛い妹が一緒にいたら、お兄ちゃん、いつまでも彼女ができないわね』


ストッキングの袋を、壊れそうなくらい抱きしめる。
グシャグシャという鈍い音が、激しい鼓動と重なった。

今の私は、きっとこの袋と同じくらい、ひどい顔をしていると思う。


気付けば信号は赤に変わったようで、人の足音が止まる。

二人の視線を感じる。

なんとなく、真樹が私に近付こうとする気配を感じた。

(ちゃんと、しなきゃ……)


「は、はじめましてええ!」

顔を上げて、すぐにぺこりと頭を下げた。

そして、真樹に精一杯の作り笑いで手を振る。
彼は眉をひそめたまま、何か言いたそうに私を見ていた。

「じゃ、じゃあね」
「ま、ま、ま…………っ」

名前を言いかけて、喉が引きつった。

『お兄ちゃん』

また、繰り返される声。

(……っ、ダメ、言えない……!)

完璧な二人を前に、胸の奥が悲鳴を上げる。


「まさ兄っ!!!!!」


自分で言った言葉が、私の胸にとどめを刺した。


「は? ――兄?」

真樹の目が丸くなった。

そして――

「はあああああああっ!?!??」


彼の激しく裏返った叫び声が、夕方のオフィス街に響き渡る。

(うえええんっ!!!)

私は心臓をバクバクさせながら、駅とも会社とも違う方向へ全速力で駆け出した。
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