君の隣は、呼吸ができる
「あ、真樹だ。お疲れさま!」

ようやく会えたのが嬉しくて、思わず声が弾む。

「ああ、うん……」

少し疲れているように見えるのが気になりつつ、私は紙袋を持ち上げた。

「ねえ、見て!」

カサリと紙袋が揺れる。

「今ね、有名なお店のマドレーヌを貰ったよ」
「期間限定のレモン味なんだって!」

ハートと鳥が描かれたお店のロゴを指差しながら笑う。

「美味しそうだよね。真樹にも分けてあげ……」

「あー……いや、俺はいいよ」

真樹はスッと目を細めて紙袋を見ると、首を横に振った。

「え?」

言い切る前に断られたので、軽く驚く。
これまで、真樹に何かを渡すときに、こんなふうに言われたことがなかったからだ。

真樹は黙り込んでしまった。
私の手元で揺れる紙袋を見つめたまま、何も言わない。

「そっかあ……」

なんだか、一人ではしゃいでいたみたいで恥ずかしくなってしまう。
胸の前に紙袋を抱え直して、視線をさまよわせた。

そんな私を見て、真樹がゆっくり口を開く。

「待たせてごめん。……じゃあ、帰るか」

そう言って、表情を和らげた。

「うん……」

私たちは、駅に入っていく。


朝ほどではなくても、混み合う駅内。

行き交う人の中、一歩前を歩く真樹。
横顔をちらりと見上げると、すぐに気付かれて目が合う。

金曜日だからか。
今日は、駅内の飲み屋に向かう人が多い。

団体が近付いてきて、真樹が無言で肩を引き寄せてくる。

「ありがとう」

お礼を言うと、真樹は視線を落として小さく微笑む。
そしてすぐに目を逸らして前を向いた。

やさしいのに。
どこか不機嫌に見えた。
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