君の隣は、呼吸ができる
そう思って頷きかけた、その時だった。

「……いや」

真樹が小さく呟いて、私の顔をうかがうように覗き込んだ。

「やっぱ、こっちにする」

「え?」

持っていたジャケットを私に押し付けて、その上に私のカバンを重ねる。
戸惑う私の前に真樹が片膝をつくと、背中と膝の裏に腕を滑り込ませてきた。

「ちょ、何……っ!?」

ふわりと体が浮いて、一気に視界が高くなる。

「ぎゃあああーーーーーー!!」

静かな住宅街の平穏をぶち壊すような大絶叫。

「うわ、うるさっ!」
「落ち着け若葉」

真樹が呆れたように笑う。

「やだやだっ!」

首を振っていると、真樹の顔が近付いて「落とさないから」と耳元で囁いた。

(……っ!)

真樹の声がくすぐったくて、思わずビクッと体が震える。

「でも……でも、こんなの……っ」

(お姫様抱っこだよおお!?)

耳の奥まで響くほど、心臓が早鐘を打っている。


「お、おろして……」
「自分で歩けるからっ!」

「はい無理、却下。諦めろ」

「ええっ!?」
「……何で……っ!?」

真樹は何も答えず、ゆっくり歩き出した。


吐息がかかるほど顔が近くて、私の視界がすべて真樹で埋め尽くされる。

(し、心臓が爆発しそうだよぉ……!)

「こんなの……」

「変だよ」と言いかける私の言葉を遮るように、真樹が足を止めた。
私を抱き直す腕に、ぐっと力がこもる。

真樹は前を見据えたまま、絞り出すように言った。

「離したくないからだよ」

「へ……っ!?」

さらにきつく抱き寄せられて、一瞬、息が止まりそうになる。

それきり、真樹は何も言わなくなった。
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