君の隣は、呼吸ができる
再び歩き出した彼の規則的な振動と、それとは対照的な不規則な鼓動が伝わってくる。

ジャケットとカバンを抱きしめたまま、私は言葉を忘れて真樹を見つめた。

街灯に照らされた横顔からは子どもの面影が薄れて、大人の男の人の輪郭をしている。
思わず、頬が熱くなる。

少し汗の混ざったいつもの匂い。

腕の中から伝わる、真樹の温かい体温。

虫の声が遠くで静かに鳴いて。
ぬるい夜風が、前髪をさらりと撫でた。 


バラバラだったお互いの胸の音が、次第に同じ速度になっていく。

(……なんでだろ……)

視界がじわりと滲んだ。


――息が、できる。


(そっか……私、苦しかったんだ……)

真樹のことを考えると、胸が苦しくなってばかりだった。

それなのに。
今、真樹の腕の中は、どうしようもなく安心する。

心地よい揺れに身を任せると、浅かった呼吸が整っていく。


彼の胸に顔を寄せれば、シャツ越しのぬくもりがじんわり伝わってきた。

離れるのが、怖い。

(――このまま、隣にいてほしいよ)


そっと、目を閉じる。
静まり返った夜の道に、真樹の足音だけがやさしく響いていた。
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