君の隣は、呼吸ができる
――どれくらい時間が経ったのだろう。

「ありがとう……真樹」

やっと、これだけを言えた。


私が泣き止むまで、真樹は何も言わずにそばにいてくれる。

街灯の下で。
夏の夜風が、火照った頬を静かに撫でていった。

顔を上げて真樹に笑いかけると、私の表情に合わせるように彼もやさしく笑った。


真樹が大きく息を吐く。

「……俺さ」
「家を出ることにした」

そう言って、真剣な目で私を見つめた。


(やっと、話してくれた……)

――ずっと、真樹の口から聞きたかった言葉。


だったはずなのに。

胸がしめ付けられて、呼吸が荒くなる。

「……いつ?」

やっとの思いで聞く。

「来週の土曜日だよ」

(……来週……)

持っていたカバンを落としかけて、私は慌ててそれをギュッと抱え込んだ。
思っていたよりもずっと早くて、頭が真っ白になる。

「言うのが遅くなってごめん」

私の動揺を察したようで、真樹が申し訳なさそうな顔をした。


「若葉は、俺に合わせるために、いつも通勤を早めてくれていただろ」

「それは私が……」

(そうしたかった、から――)

そう言いかけたところで、真樹が遮るように言葉を続ける。

「今まで苦しそうだった」
「一緒に行くの、当たり前にさせてごめん」

静かで、噛みしめるようにゆっくり話す。

「これで、ちょっとは楽になれるよな?」

真樹の笑顔が寂しそうに見えた。

私がすごく寂しいから、そう見えただけかもしれない。

「そんなこと……心配しなくていいのに」

私は、首を小さく振る。
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