君の隣は、呼吸ができる
扉を開けると、朝の光が眩しくて、じりじりと肌を焼く暑さに面食らった。
セミの鳴き声が元気よく住宅街に響いている。

すぐに視線が向いた先には、白い壁の隣の家。

門の前に立つ大きな背中を見つけた瞬間、胸が大げさに跳ねる。

(いた……!)

私の幼馴染で――恋人の、真樹がいた。

風に揺れる柔らかい黒髪と、シワひとつなさそうな白いTシャツ姿の彼は、この真夏の日差しを浴びても涼しげに見える。

平日の朝は、いつも会っているのに。
今までと違うように見えてしまうのは何でだろう。

彼は、深い青色の四角くて大きな車のトランクに、荷物を積み込んでいるところだった。
今度の土曜日の本格的な引っ越しに向けて、実家から運べる荷物を先に、新居へ持っていくらしい。

「あ、若葉。おはよ」

真樹が顔を上げて、声を掛けてくれる。
いつものように落ち着いた声だった。

「お、おはよー」

私の顔をじっと見つめると、薄い唇がふっと上がった。
そんな風に微笑まれると、どうも落ち着かない。

(うう、恥ずかしくて気まずい)

もじもじしていたら、背後から別の低い声がした。

「真樹。若葉ちゃんがいるんだから、安全運転しろよ」

段ボールを抱えて門から出てきたのは、真樹のお父さん。
私は慌てて頭を下げて挨拶をした。
背の高さも、笑ったときの目元も、二人はよく似ている。

「分かってるよ」

真樹は苦笑しながら、助手席のドアを開ける。

「若葉は、先に座ってて」

「う、うん」

真樹のお父さんの背中から、ひょっこり現れたお母さんが、温和な雰囲気で私に笑いかける。

「若葉ちゃん、お手伝いしてくれて本当にありがとうね」

私はまた頭を下げて挨拶すると、両手と首をぶんぶん振る。

「いっ、いえ、いえいっ!」

(げっ!)

慌てたせいで上手く言えなかった。

もしかしたら、「Yeah! Yeah!」って勘違いされたかも。
炎天下の中、小刻みにリズムをとる陽気な人だと思われたかもしれない。

全身からどっと汗が吹き出した。

にこにこしたご両親の後ろで、真樹が笑いを堪えて震えていた。
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