君の隣は、呼吸ができる
「じゃあ、行きますか」
そう言って真樹は、慣れたようにギアに手をかけて左右に目を配る。
ウィンカーのカチカチした音が鳴ると、ゆっくりと車が動き始めた。
サイドミラーから、真樹のご両親が手を振ってくれているのが見える。
(あ……)
改めて見ると、お二人も身長差がかなりある。
それなのに、デコボコしているようには見えなかった。
並んで立った姿が穏やかで、とても自然で、どこからどう見ても素敵なご夫婦だった。
私は、自分の親に、『友だちと真樹の家に行く』と伝えてきた。
真樹の方は、どう伝えたのだろう。
ちらりと右の隣を見上げる。
真樹が運転する車の隣に座ったのは初めて。
大きな手でハンドルを握る姿。
真剣な表情で前を見つめている横顔。
(……かっこいい)
こんなふうに思って見つめているのも、彼にはバレてしまったみたい。
「照れるんですけど」
真樹が、小さく笑った。
そんな彼も、少しだけ頬が赤くなっている。
赤信号で停止すると、さらにエアコンの温度を下げていた。
お互いに、なんとなく視線が合わない。
いつも通り話したいのに、何を話せばいいか分からない。
ふわりとした空気が、私たちの間を漂っている。
でも、口元が緩みっぱなしなところは同じ。
恋人になっても、私の隣は変わらない。
だけど、一つ一つが昨日までより特別で、胸が温かくなった。