君の隣は、呼吸ができる

「じゃあ、行きますか」

そう言って真樹は、慣れたようにギアに手をかけて左右に目を配る。
ウィンカーのカチカチした音が鳴ると、ゆっくりと車が動き始めた。

サイドミラーから、真樹のご両親が手を振ってくれているのが見える。

(あ……)

改めて見ると、お二人も身長差がかなりある。
それなのに、デコボコしているようには見えなかった。
並んで立った姿が穏やかで、とても自然で、どこからどう見ても素敵なご夫婦だった。

私は、自分の親に、『友だちと真樹の家に行く』と伝えてきた。
真樹の方は、どう伝えたのだろう。

ちらりと右の隣を見上げる。

真樹が運転する車の隣に座ったのは初めて。
大きな手でハンドルを握る姿。
真剣な表情で前を見つめている横顔。

(……かっこいい)

こんなふうに思って見つめているのも、彼にはバレてしまったみたい。

「照れるんですけど」

真樹が、小さく笑った。
そんな彼も、少しだけ頬が赤くなっている。

赤信号で停止すると、さらにエアコンの温度を下げていた。

お互いに、なんとなく視線が合わない。

いつも通り話したいのに、何を話せばいいか分からない。
ふわりとした空気が、私たちの間を漂っている。

でも、口元が緩みっぱなしなところは同じ。

恋人になっても、私の隣は変わらない。

だけど、一つ一つが昨日までより特別で、胸が温かくなった。
< 68 / 81 >

この作品をシェア

pagetop