君の隣は、呼吸ができる
気を取り直して、さっそく部屋に上がらせてもらった。

「お邪魔しまーす……」

まっすぐに伸びたピカピカの廊下は、歩くたびに小さく音を立てた。

右手には洗面所と浴室があり、廊下の先には広いリビングとキッチン。
リビングの中央に、真新しいグレーのソファ。
それと、艶のある白いローテーブルに、同じ色のテレビボード。

その先の大きな窓には、淡い緑色のカーテンが端に寄せられていた。


今度の土曜日に、真樹はここで新しい生活を始める。

(……隣の家には、もういなくなっちゃうんだ)

静かな空気の中に、かすかに真樹の香りがして胸がきゅうっと苦しくなる。

思わず、自分の足元へ視線を落とした。

これからは、一人で通勤することになる。

朝、家を出る時間は、真樹が社会人になる前の頃に戻る。


窓から伸びる光が、一本の道のようにフローリングと私の足元を照らす。
その明るい筋をなぞるように、ゆっくりと歩いてみた。

「隣の家じゃなくなるだけだもんね……」

しばらくは、そう自分に言い聞かせる毎日になりそう。
小さくため息をついた。
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