君の隣は、呼吸ができる
ソファに座っている真樹に近付き、隣へ腰をおろす。
彼は、説明書から目を離して、こちらを見て微笑んだ。

少し緊張しながら、そっと肩を寄せる。

「疲れた?」

私を気遣うような穏やかな声が、頭に落ちる。

「ううん」

首を振っていると、腕が回ってきて、ふわりと抱き寄せられた。

彼にくっつくと、鼓動と体温が頬から伝わってくる。

(ひゃー……)

あの脇腹を思い出してしまって恥ずかしい。
真樹の心臓の音が聞こえなくなってしまうくらい、私の胸がうるさく鳴り始めた。

(……でも……)

それ以上に、こうしていると安心する。

肩と腕をやさしく撫でてくれる手が温かくて、すごく心地よかった。

「真樹が好き」

シャツをそっと掴んで、思わず口にしてしまった。

真樹の手が止まった。

「この気持ち、増えてばかりで……」

言葉を探しながら、ヘラッと笑う。

「私、どうなっちゃうんだろ?」



エアコンの風がカーテンを揺らす。
カサリと、説明書をソファに置く音がした。

「あのさ……」

彼の大きな手に、少しだけ力が入る。

「……昨日の、ちゃんとしていい?」

その一言で、鼓動が跳ねる。

(キ、キスってことだよね……?)

昨日は、私の心の準備ができなくて、おでこに触れただけだった。
それでも嬉しかったけれど、自分も向き合いたい気持ちもあった。

心臓が早鐘を打ち始めて、呼吸も乱れていく。

真樹は何も言わないで、また私をやさしく撫でる。

少しだけ彼を見上げて、小さく頷いた。

「い、いいよ……」

やっとそう答えると、みるみる頬が熱くなっていく。

真樹は安心したように微笑むと、体を私の方に傾けた。

ゆっくりと顔が近付く。
服の擦れる音がして、重なりそうなほど息が近くなる。

「俺も、若葉が好きだよ」

真樹が小さく囁いた。

その低い声が、耳から体の奥まで響いて体が震える。
シャツを掴む手に少しだけ力を込めて、私は目を閉じた。

柔らかくて、温かい。
好きな人とする、初めてのちゃんとしたキス。


(幸せで……息できない……)

呼吸の仕方を忘れるときって、苦しいときだけじゃないんだ。

こんな気持ちを、初めて知った。
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