好きが止まらない
第2話 カフェ・ルーチェ
休日の午後。
私は駅前の通りを歩いていた。
視線の先には、木製の看板。
『Cafe Luce』
先日、悠真さんに教えてもらったカフェだ。
来るつもりはなかった。
本当だ。
ただ、休日に読む本を探しに書店へ行った帰り、少しだけ気になってしまっただけで。
──少しだけ。
店の前で立ち止まる。
ガラス越しに見える店内は落ち着いた雰囲気だった。
観葉植物と木のテーブル。
柔らかな照明。
なんとなく居心地が良さそうだ。
入ろうか。
やっぱり帰ろうか。
そんなことを考えていると、
「雨宮さん?」
後ろから声がした。
振り返る。
そこには買い出し帰りらしい悠真さんがいた。
「あ……」
「来てくれたんですね」
嬉しそうに笑う。
私は一気に気まずくなった。
「たまたま近くまで来たので……」
言い訳みたいな言葉が口から出る。
悠真さんはくすりと笑った。
「じゃあ、そのたまたまで入ってください」
そう言いながらドアを開けてくれる。
断れる雰囲気ではなかった。
◆
店内は思っていた以上に落ち着いていた。
コーヒーの香りが心地いい。
窓際の席へ案内される。
「何にします?」
メニューを渡される。
どれも美味しそうで迷う。
「おすすめはありますか?」
そう聞くと、悠真さんは少し考えた。
「雨宮さんなら、カフェラテかな」
「私なら?」
「甘いの苦手そうだから」
思わず顔を上げる。
そんなこと話しただろうか。
「なんで分かったんですか?」
「肉じゃがです」
「え?」
「味付けがちょうどよかったから」
彼は笑う。
「甘すぎる味付けをする人じゃないなって」
そんなことで分かるものなのだろうか。
でも少し驚いた。
ちゃんと覚えていてくれたことが。
「じゃあ、それでお願いします」
「かしこまりました」
わざと店員らしく頭を下げる姿に、思わず笑ってしまう。
◆
しばらくして運ばれてきたカフェラテは、とても綺麗だった。
ひと口飲む。
優しい味がした。
「美味しいです」
「よかった」
嬉しそうな顔をする。
まるで褒められた子どもみたいだ。
その時だった。
私のバッグから本が少しはみ出しているのに気づいた悠真さんが言った。
「その作家、好きなんですか?」
私は目を瞬かせた。
「知ってるんですか?」
「好きですよ」
彼が挙げた作品名は、私が一番好きな小説だった。
思わず身を乗り出す。
「私も好きです!」
「やっぱり」
悠真さんは笑った。
それからしばらく、本の話で盛り上がった。
気づけば一時間近く経っていた。
こんなに誰かと話したのは久しぶりかもしれない。
しかも楽しかった。
心から。
◆
帰り際。
レジで会計を済ませようとすると、
「今日はサービスです」
と悠真さんが言った。
「え?」
「初来店記念」
「そんなの聞いたことありません」
「今作りました」
ずるい。
そう思うのに、少し嬉しい。
店を出る直前。
悠真さんが言った。
「そういえば」
「はい?」
「次は新刊の感想、聞かせてください」
私は立ち止まった。
その言葉が妙に胸に残る。
社交辞令かもしれない。
常連になってほしいだけかもしれない。
それでも。
また来てもいいと言われた気がした。
「……読み終わったら」
「うん」
「聞いてください」
そう答えると、悠真さんは優しく笑った。
帰り道。
胸の奥が少しだけ温かい。
本の話をしただけ。
カフェに行っただけ。
それだけなのに。
気づけば私は、次に会う理由を探していた。
私は駅前の通りを歩いていた。
視線の先には、木製の看板。
『Cafe Luce』
先日、悠真さんに教えてもらったカフェだ。
来るつもりはなかった。
本当だ。
ただ、休日に読む本を探しに書店へ行った帰り、少しだけ気になってしまっただけで。
──少しだけ。
店の前で立ち止まる。
ガラス越しに見える店内は落ち着いた雰囲気だった。
観葉植物と木のテーブル。
柔らかな照明。
なんとなく居心地が良さそうだ。
入ろうか。
やっぱり帰ろうか。
そんなことを考えていると、
「雨宮さん?」
後ろから声がした。
振り返る。
そこには買い出し帰りらしい悠真さんがいた。
「あ……」
「来てくれたんですね」
嬉しそうに笑う。
私は一気に気まずくなった。
「たまたま近くまで来たので……」
言い訳みたいな言葉が口から出る。
悠真さんはくすりと笑った。
「じゃあ、そのたまたまで入ってください」
そう言いながらドアを開けてくれる。
断れる雰囲気ではなかった。
◆
店内は思っていた以上に落ち着いていた。
コーヒーの香りが心地いい。
窓際の席へ案内される。
「何にします?」
メニューを渡される。
どれも美味しそうで迷う。
「おすすめはありますか?」
そう聞くと、悠真さんは少し考えた。
「雨宮さんなら、カフェラテかな」
「私なら?」
「甘いの苦手そうだから」
思わず顔を上げる。
そんなこと話しただろうか。
「なんで分かったんですか?」
「肉じゃがです」
「え?」
「味付けがちょうどよかったから」
彼は笑う。
「甘すぎる味付けをする人じゃないなって」
そんなことで分かるものなのだろうか。
でも少し驚いた。
ちゃんと覚えていてくれたことが。
「じゃあ、それでお願いします」
「かしこまりました」
わざと店員らしく頭を下げる姿に、思わず笑ってしまう。
◆
しばらくして運ばれてきたカフェラテは、とても綺麗だった。
ひと口飲む。
優しい味がした。
「美味しいです」
「よかった」
嬉しそうな顔をする。
まるで褒められた子どもみたいだ。
その時だった。
私のバッグから本が少しはみ出しているのに気づいた悠真さんが言った。
「その作家、好きなんですか?」
私は目を瞬かせた。
「知ってるんですか?」
「好きですよ」
彼が挙げた作品名は、私が一番好きな小説だった。
思わず身を乗り出す。
「私も好きです!」
「やっぱり」
悠真さんは笑った。
それからしばらく、本の話で盛り上がった。
気づけば一時間近く経っていた。
こんなに誰かと話したのは久しぶりかもしれない。
しかも楽しかった。
心から。
◆
帰り際。
レジで会計を済ませようとすると、
「今日はサービスです」
と悠真さんが言った。
「え?」
「初来店記念」
「そんなの聞いたことありません」
「今作りました」
ずるい。
そう思うのに、少し嬉しい。
店を出る直前。
悠真さんが言った。
「そういえば」
「はい?」
「次は新刊の感想、聞かせてください」
私は立ち止まった。
その言葉が妙に胸に残る。
社交辞令かもしれない。
常連になってほしいだけかもしれない。
それでも。
また来てもいいと言われた気がした。
「……読み終わったら」
「うん」
「聞いてください」
そう答えると、悠真さんは優しく笑った。
帰り道。
胸の奥が少しだけ温かい。
本の話をしただけ。
カフェに行っただけ。
それだけなのに。
気づけば私は、次に会う理由を探していた。


