乾杯はふたりだけの秘密
 テレビから流れるクリスマスソングに時折耳を傾け、笑顔を交わしながら食事と会話を楽しみ、夜が更けていく。
 お開きの合図は何だろう。終電も気にしなくていいし、明日は日曜日だ。
 料理がなくなった時? ワインがなくなった時?
 結衣はふと考えて、残り少なくなったワインボトルをしんみりと見つめた。
「ケーキ、食べませんか? まだ入りますか?」
「あ、そうだね。大丈夫だよ、ケーキは別腹だから」
 笑顔で返したが、それが本当のお開きの合図のような気がして、切なさが込み上げた。
 賢吾が箱を開けると、小振りなチョコレート色のブッシュ・ド・ノエルが顔を出した。
「わあ、可愛い~」
 ベリーと星形のチョコ、可愛らしいサンタクロースとヒイラギが飾られている。
「食べるのもったいないね」
「でも食べるんでしょ?」
「うん、食べる~」
 そんなじゃれ合うような会話で、少しだけ寂しさが紛れた。
 甘いものを食べると、自然と笑顔になる。
「美味しかったね」
「はい」
 不意に、賢吾が腕時計を確認した。
「あ、そろそろ俺帰りますね。遅くまで付き合ってくれてありがとうございました。シチュー、すげえ旨かったです」
「ああ、ううん。こっちこそ、ケーキとチキンとワインまでありがとう。美味しかった」
「すっげえ楽しかったです」
 賢吾が少年のように白い歯を見せた。
 そんな顔を見せられたら、どうしようもないくらいに、引き止めたくなってしまう。
 賢吾がダウンジャケットを羽織り、玄関に向かう。スリッパを脱ぎ、スニーカーの踵部分に指を引っ掛けて足を入れた。
 早く引き止めないと、帰ってしまう。
「あの……」
 コンマ一秒の差で、賢吾の言葉が先にこぼれた。
「うん?」
「明日は予定ありますか?」
「ううん、特にないけど」
「もしよければ、昼飯行きませんか? 前に話してた駅前のスープカレーの店、もう行きましたか?」
 思いも寄らない誘いに、胸が高鳴る。
「まだ行ってない」
「一緒にどうですか?」
 他愛もない会話を覚えてくれていたことが嬉しすぎて――
「行きたい!」
 結衣は思わずはしゃいだ声を上げた。
「じゃあ、十二時頃に駅前のいつもの信号で」
「うん、わかった」
「じゃあ、また明日」
「うん、また明日」
 玄関の扉が開くと、冷たい夜風が流れ込んできた。
「おやすみなさい」
 振り向いた賢吾が、はにかみながら笑う。
「おやすみ」
 自然と口元が緩む。
 扉が閉まり、静かになった玄関にひとり取り残されても、寂しさはなかった。
 明日、また会える。
 その約束が、結衣の胸を温かく包み込んだ。
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