乾杯はふたりだけの秘密
 賢吾が実家から戻ったのは、翌日の夕方だった。
「おかえり、早かったね」
 玄関で出迎えると、賢吾は照れ臭そうに「戻りました」と口にして、大きな紙袋をふたつ差し出した。
「大量の餅と、おせちの余りとか色々……俺ひとりじゃ食えないんで、どうぞ」
「えーっ、嬉しい! ありがとう。とりあえず中入って」
「はい、お邪魔します」
 帰りの電車の中からメールがあった。渡したいものがあるから寄ってもいいか、という内容だった。結衣は「家にいるから、いつでも」と返信していた。
「急にすみません」
「ううん、全然」
 本当は会えたことが嬉しくて仕方がないけれど、あくまでも冷静を装う。紙袋をテーブルに置き、中身をひとつずつ出していく。
 餅に缶詰め、果物、瓶に入った高級ジュース。保冷バッグには丁寧にパック詰めされたおせちの黒豆や数の子、煮しめの他にも色々出てきた。一番底には高級すき焼き肉が隠れていた。
「わあ、すごーい! 高そうなお肉!」
「食いきれねえのに、馬鹿みたいに買ったみたいで」
 帰省土産は、愛情がそのまま物量になる。幸せな家族像が浮かんだ。
「新田君、何かいいことあった?」
「え?」
「表情がいつもより明るいっていうか……何だろう、幸せオーラが溢れ出してる、みたいな感じ?」
「それは、五日ぶりに先輩に会えたからじゃないですかね」
「もうっ! またそんな調子いいことばっか言って」
 つい、頬が緩む。
「それはマジですから! それと……あー、いや……何でもないです」
「何? そこまで言って、気になるじゃん」
 隠されるほど、知りたい気持ちが募る。
「ああ、家のことなんですけど」
「うん」
「うち、俺が中学生の時に親が離婚したんですけど……再婚して」
「え?」
「当時はガキだったし、親が激しく言い争ってるとこだけ見て、喧嘩ばっかしてると思ってたんですけど、後から聞いたら理由がちゃんとあって」
「うん」
 その理由は、当時の賢吾からは聞いていない。
「父親が事業に失敗して多額の借金ができたんです。取り立てとか色んな問題があって、父親は俺のことを最優先に考えて離婚を口にしたらしいんですけど、母親は猛反対ですげえ揉めたらしくて。結局、父親がひとりで家に残って、俺と母親が別の場所に引っ越すことになったんですけどね」
「そうだったんだ」
 言ってから、おかしな言い方をしてしまったことに気付いたけれど、賢吾は特に気にもしていないようだった。
「それで、昨日帰った時に再婚したって聞かされて」
「え、どういうこと? 誰が?」
 突然話が飛んで理解が追い付かず、聞き返した。
「復縁して、再婚したんです。籍を入れ直したって」
「あ、そういうこと! へえ、そうなんだぁ。良かったね」
「まあ、はい。離婚してからもよく三人で会ってはいたんですけど、それは面会的なことなのかなと思ってて」
「でも、実際はずっと心は繋がってたっていうことだよね?」
 結衣が尋ねると、賢吾は頷き、どことなく照れ臭そうな表情を浮かべた。
「何か、すみません。俺の家のこと」
「ううん、ほんとに良かったね」
 共感的な喜びと、大切な家族のことを、おそらく一番に話してくれたことが嬉しくて、目頭が熱くなった。
< 32 / 42 >

この作品をシェア

pagetop