乾杯はふたりだけの秘密
 翌日、昼過ぎに賢吾が家まで迎えに来てくれて、近くの神社に向かった。
 三が日を外したにも関わらず、予想外の人の多さに結衣は圧倒されていた。
「人混み、大丈夫そうですか?」
「うん、大丈夫だよ」
 気遣ってくれる賢吾に笑顔で答えながら参道を進む。
「あれーぇ? 結衣ちゃんじゃん」
「え。また?」
 偶然のはずだ。けれど、タイミングの悪さに、結衣は思わず心の声を漏らした。参道で出会した佐々木が、意味ありげな視線を向けている。
「また新田と? さすがに今日は偶然じゃないよな?」
「はい。俺が誘いました」
 賢吾が間髪いれずに答えた。
「結衣ちゃんって、誘われたら断らないタイプ?」
 佐々木の言葉はいちいち癪にさわる。
「相手によるかな」
 その言葉の意味を佐々木が理解できたかどうかはわからない。佐々木は当然というように、前とは別の女を連れている。
「誰?」「会社の――」「どうも」と、くだらないやり取りを交わす。どうせもう二度と会うことはないのに。
「じゃあ、明日会社で」
 早々に話を切り上げて佐々木と別れた。
 正月早々、ついてないなぁ。
 思わずため息を漏らすと、賢吾が可笑しそうに笑いながら顔を寄せてきた。
「タイミング悪すぎー」
 あっけらかんとして言った賢吾の表情からは、気まずさは見受けられない。佐々木に見られたことを気にする様子も全くないように見える。
「神社は神聖な場所なのにね」
「俺は、神様に偽りなく誠実ですから」
 勝手な想像で、急激に頬が熱くなる。
「佐々木先輩は、逆に清められたんじゃないですかね」
「言うねえ」
 賢吾が佐々木を敵視しているのは明らかだった。子供みたいに悪口を言うことはしないが、言葉の端々にそれを感じる。
「あ、御守り買いたいの」
「安産守りですか?」
 聞かれて、思わず吹き出した。
「なんで安産なのよ」
「ああ、まずは縁結びですね」
「だよね~。ちょっとここで待っててね」
 結衣は曖昧に笑いながら言うと、賢吾を待たせてひとりで授与所に向かった。
 図星過ぎて、さすがに一緒に並んでは買えない。
「健康守りと――」
 誰が何の御守りを買おうと、気にする者はいない。それなのに、視線を感じるような気がして背筋が熱くなった。
 結衣は無事に目当ての御守りを購入して、賢吾の元に駆け寄った。
「おまたせ。はい、これは新田君の」
「え、俺にですか? ありがとうございます。御守り貰ったの初めてです。すげえ嬉しいです」
 驚いた様子の賢吾は、小さな紙袋から御守りを取り出して確認した。
「肌身離さず持っておきます。先輩も健康守りですか?」
「ああ、うん」
 本当は、縁結びだ。
「俺なら欲張って、開運守りとかオールマイティなやつ選びそうです」
「実はそれと迷ったんだけど、やっぱり欲張ったらダメかなぁと思ってね」
「神様はそんなケチ臭くないですよ」
 笑いながらそんなことを言う賢吾は、好きな酒を断ってまでたったひとつの願掛けをしている。
「この後どうしますか?」
 御守りを財布になおしながら賢吾が尋ねた。
「あー……」 
「どっかでお茶でもしますか?」
「え? あ、うん」
 誘ってくれなければ、誘うつもりでいた。焦っているのは賢吾ではなく、結衣のほうだった。
 クリスマスから何の進展もない。賢吾が言った「焦っている」の線引きがどこなのかもわからない。お茶や食事はよくて、それ以上はダメということだろうか。
 たとえば――
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