乾杯はふたりだけの秘密
「寒いね」
神社を出て歩道を歩きながら、結衣は両手を擦り合わせた。両方のポケットに忍ばせてきたカイロはもちろん内緒だ。
「佐々木先輩がまだその辺にいるかもしれないですよ」
「え?」
辺りを見回そうとした瞬間、片方の手が温かいものに包まれた。
驚いて見上げると、賢吾の視線が「どうする?」と聞いているように見えた。けれど、言葉とは裏腹に、しっかりと指が絡めとられている。賢吾は見られても構わないということだろうか。軽い駆け引きのつもりが、完全に翻弄されていた。
賢吾を見つめたまま強く握り返した結衣は、急に込み上げた恥ずかしさに耐えきれず視線をそらした。
どうやら、手を繋いで歩くのはオッケーということらしい。
「あったかいコーヒー飲みたいですね」
「うん、そうだね」
冷たくなった指先に、賢吾の体温がゆっくりと移ってくる。カイロ越しではない賢吾の手のひらは、柔らかいというよりは程よく厚みがあってがっしりとしていて、節の太い骨張った指からは力強さが伝わる。昔の賢吾の手がどうだったかまではわからないが、力仕事でもしていたような手だ。時折指先を動かして賢吾の指の感触を確かめると、それに応えるように賢吾が指を絡めてくる。
「ケーキも食べたいな」
結衣は、少しわがままを言ってみた。
「じゃあ、この近くで開いてそうな店探しますね」
歩道脇で立ち止まった賢吾は、空いた方の手でポケットからスマホを取り出すと、後ろのガードレールにもたれ掛かりながら、片手で、慣れた手つきで操作を始めた。
結衣がスマホ画面を覗き込んでいると、不意に視線を上げた賢吾に手を引かれ、体が密着した。
「人が多いからもっとこっち寄ってください。ぶつかりますよ」
結衣は頷いて、賢吾にぴったりと寄り添った。数秒前まで繋いでいた賢吾の左手は、腰に回っている。
もしも今、また佐々木に出会したら、もう言い訳は通用しないだろう。賢吾はそれをわかっているのだろうか。
「ここ、行ってみましょうか」
賢吾がこちらに向けたスマホ画面には、女子が好みそうなお洒落なカフェの画像が写っていた。
「うん」
「ちょっと歩きますけど、大丈夫ですか?」
「うん、全然大丈夫だよ」
「じゃあ行きましょうか」
賢吾は笑顔を見せると、手を差し出してきた。結衣は黙って手を重ねた。
さっきは賢吾からだったのに、と別バージョンの手繋ぎに初めてのような照れ臭さを覚えて頬が熱くなる。覗き込むような賢吾の視線が、何かを試しているように思えて、目を合わせることができない。
神社を出て歩道を歩きながら、結衣は両手を擦り合わせた。両方のポケットに忍ばせてきたカイロはもちろん内緒だ。
「佐々木先輩がまだその辺にいるかもしれないですよ」
「え?」
辺りを見回そうとした瞬間、片方の手が温かいものに包まれた。
驚いて見上げると、賢吾の視線が「どうする?」と聞いているように見えた。けれど、言葉とは裏腹に、しっかりと指が絡めとられている。賢吾は見られても構わないということだろうか。軽い駆け引きのつもりが、完全に翻弄されていた。
賢吾を見つめたまま強く握り返した結衣は、急に込み上げた恥ずかしさに耐えきれず視線をそらした。
どうやら、手を繋いで歩くのはオッケーということらしい。
「あったかいコーヒー飲みたいですね」
「うん、そうだね」
冷たくなった指先に、賢吾の体温がゆっくりと移ってくる。カイロ越しではない賢吾の手のひらは、柔らかいというよりは程よく厚みがあってがっしりとしていて、節の太い骨張った指からは力強さが伝わる。昔の賢吾の手がどうだったかまではわからないが、力仕事でもしていたような手だ。時折指先を動かして賢吾の指の感触を確かめると、それに応えるように賢吾が指を絡めてくる。
「ケーキも食べたいな」
結衣は、少しわがままを言ってみた。
「じゃあ、この近くで開いてそうな店探しますね」
歩道脇で立ち止まった賢吾は、空いた方の手でポケットからスマホを取り出すと、後ろのガードレールにもたれ掛かりながら、片手で、慣れた手つきで操作を始めた。
結衣がスマホ画面を覗き込んでいると、不意に視線を上げた賢吾に手を引かれ、体が密着した。
「人が多いからもっとこっち寄ってください。ぶつかりますよ」
結衣は頷いて、賢吾にぴったりと寄り添った。数秒前まで繋いでいた賢吾の左手は、腰に回っている。
もしも今、また佐々木に出会したら、もう言い訳は通用しないだろう。賢吾はそれをわかっているのだろうか。
「ここ、行ってみましょうか」
賢吾がこちらに向けたスマホ画面には、女子が好みそうなお洒落なカフェの画像が写っていた。
「うん」
「ちょっと歩きますけど、大丈夫ですか?」
「うん、全然大丈夫だよ」
「じゃあ行きましょうか」
賢吾は笑顔を見せると、手を差し出してきた。結衣は黙って手を重ねた。
さっきは賢吾からだったのに、と別バージョンの手繋ぎに初めてのような照れ臭さを覚えて頬が熱くなる。覗き込むような賢吾の視線が、何かを試しているように思えて、目を合わせることができない。