乾杯はふたりだけの秘密
「行こう!」
「えっ、ちょっと待ってってば!」
 店を出ると強引に腕を引っ張られ、結衣はバランスを崩してアスファルトに膝をついた。
「お客様、大丈夫ですか?」
 男性店員が慌てた様子で外まで出てきてくれた。ガラス張りの店内から外の様子が見えたのだろう。
「ああ、大丈夫大丈夫。彼女ちょっと酔ってて躓いただけ。ほら、結衣ちゃん立って」
 佐々木がわざとらしく手を差しのべてきた。
「私、今日一滴もお酒飲んでないし!」
 結衣は強く言い返してその手を振り払い、立ち上がった。
「あの、お客様。女性に乱暴されたということでしたら、警察に通報させていただきます」
 レジでの対応とは打って変わって、男性店員が険しい表情を見せた。
「そんなんじゃねえよな、結衣ちゃん?」
 佐々木は急に猫なで声を出した。
「別に取って食おうなんて思ってねえから、ちょっと付き合ってよ~」
「はあ? 話が違うじゃん。新田君の話だって言ってたよね」
「新田の話? えーっと……何だっけ。ああ、そうそう。場所変えてふたりきりになってから教えてあげるよ」
 男性店員は戻るに戻れないという様子で、そばで見守ってくれている。
「佐々木君、飲み過ぎだよ。私そこのコンビニでお水買ってくるから待ってて」
「そんなのいいから、早く行こうよ!」
「行かないってば!」
 結衣は佐々木に捕まれた腕を勢いよく振り払った。
「じゃあ、会社にバラす。新田の過去」
「え? ちょっと、何言ってるの? 私のこと脅してる?」
「脅されてると思うってことは、やっぱ新田と何かあんの?」
「だから、何もないって言ってるでしょ」
「だったら別にいいじゃん。新田がどうなろうと関係ねえんだろ?」
 佐々木の身勝手な言動に、結衣は怒りを覚えた。
「そういうことじゃないでしょ。だってバレたらクビなんでしょ? 同じ部署の仲間なんだから、佐々木君が黙っててあげればいい話じゃない。新田君に何の恨みがあるっていうの?」
「あいつ生意気なんだよな。ちょっとルックスがいいからって調子乗りすぎだろ」
「はあ? そんな理由で?」
 佐々木の目的がどうもはっきりしない。のんべえ会での一件もあって、酔った勢いで男女の関係になろうとたくらんでいるのかと思っていたけれど、そうでもない気がする。それに、こっちは素面だ。ただ単に賢吾のことが気に入らなくて貶めようとしているのだろうか。どっちにしても、酔っ払いとはまともに話ができそうにない。
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