乾杯はふたりだけの秘密
真摯な想い
会社での賢吾の様子は、いつもと変わらない。それが嵐の前の静けさのようで、かえって結衣の心をざわつかせた。
「結衣ちゃん、どうかした?」
不意に呼びかけられ、はっと顔を上げる。心配そうに覗き込むなかじーと目が合い、結衣は慌てて首を振った。
「ううん、何でもないよ。ちょっと考え事してただけ」
「そっか。俺に手伝えることだったら言ってね」
「うん、ありがとう」
なかじーは笑顔を浮かべて通りすぎていった。
誰にも相談することなんてできない。自業自得だとわかっている。賢吾だけではなくて、なかじーやまさやんへの裏切り行為とも言える。
佐々木の視線は、電話対応中の賢吾へと向けられている。怒りが収まっていない様子が伺えた。佐々木の怒りが、賢吾の挑発によるものなのか、ただ単に邪魔されたことがおもしろくなかっただけなのか、理由はわからない。そもそも、以前から何となく賢吾を快く思っていないような雰囲気を滲ませていたが、それがいつからかと聞かれると、それもわからない。原因となる何かがあったわけでもなさそうに思える。
電話を切った賢吾と視線が絡み、結衣は見つめることも微笑むこともできずに、さりげなく逸らした。冷たい視線を向けられたあと、拒絶するように目を背けられたら、と考えると、背筋が冷たくなった。
好きだと囁かれたのはただの空耳で、クリスマスに手を繋いだことも、新年会の別れ際の額へのキスも、すべてが夢のように思えてきた。
「新田君、チョコ食べる?」
賢吾のデスクの横に立つ有紀の姿が見えた。
「おっ、ありがとう」
賢吾の笑顔を目にした瞬間、不意に涙が溢れて、結衣は思わず俯いた。新年会のあとも、有紀が何かと理由をつけて賢吾に話しかけたり、遠回しに好意を滲ませる様子を目にしていた。
素直で思いやりのある彼女ならきっと、自分のように思慮に欠けた行動はしなかっただろう。
いつも当たり前に隣にあった笑顔がなくなることで、こんなにも心のバランスが崩れてしまうことに、結衣は戸惑いを隠せなかった。
就業のチャイムが鳴っても、賢吾はパソコンに向かったままだった。結衣は声を掛けることもできず、黙って会社を後にした。
「結衣ちゃん、どうかした?」
不意に呼びかけられ、はっと顔を上げる。心配そうに覗き込むなかじーと目が合い、結衣は慌てて首を振った。
「ううん、何でもないよ。ちょっと考え事してただけ」
「そっか。俺に手伝えることだったら言ってね」
「うん、ありがとう」
なかじーは笑顔を浮かべて通りすぎていった。
誰にも相談することなんてできない。自業自得だとわかっている。賢吾だけではなくて、なかじーやまさやんへの裏切り行為とも言える。
佐々木の視線は、電話対応中の賢吾へと向けられている。怒りが収まっていない様子が伺えた。佐々木の怒りが、賢吾の挑発によるものなのか、ただ単に邪魔されたことがおもしろくなかっただけなのか、理由はわからない。そもそも、以前から何となく賢吾を快く思っていないような雰囲気を滲ませていたが、それがいつからかと聞かれると、それもわからない。原因となる何かがあったわけでもなさそうに思える。
電話を切った賢吾と視線が絡み、結衣は見つめることも微笑むこともできずに、さりげなく逸らした。冷たい視線を向けられたあと、拒絶するように目を背けられたら、と考えると、背筋が冷たくなった。
好きだと囁かれたのはただの空耳で、クリスマスに手を繋いだことも、新年会の別れ際の額へのキスも、すべてが夢のように思えてきた。
「新田君、チョコ食べる?」
賢吾のデスクの横に立つ有紀の姿が見えた。
「おっ、ありがとう」
賢吾の笑顔を目にした瞬間、不意に涙が溢れて、結衣は思わず俯いた。新年会のあとも、有紀が何かと理由をつけて賢吾に話しかけたり、遠回しに好意を滲ませる様子を目にしていた。
素直で思いやりのある彼女ならきっと、自分のように思慮に欠けた行動はしなかっただろう。
いつも当たり前に隣にあった笑顔がなくなることで、こんなにも心のバランスが崩れてしまうことに、結衣は戸惑いを隠せなかった。
就業のチャイムが鳴っても、賢吾はパソコンに向かったままだった。結衣は声を掛けることもできず、黙って会社を後にした。