乾杯はふたりだけの秘密

 二月に入って、久しぶりにのんべえ会の招集が掛かった。
「結衣ちゃん、俺、下で用事済ませたら先に店行ってるから」
 まさやんがリュックを肩に掛け、手を上げた。
「オッケー」
「なかじーと新田は、こっち戻らずに取引先から直接和味に行くって」
「わかった。じゃあ後でね~」
 結衣はデスクを片付けてから化粧室に向かった。
 賢吾に抱きしめられた夜から、半月ほどが過ぎていた。会社での賢吾は相変わらず爽やかだ。けれど、もう夢なのではないかとは思わない。賢吾が直帰で顔を合わせない日は、夜に連絡をくれるようになった。
 今思えば、佐々木とのことがあったおかげで賢吾との関係が前進したと言える。もちろんそんなことは、口が裂けても言えないけれど。
 結衣はリップを塗り直し、髪を整えてから鏡に向かって笑顔を作った。
 エレベーターがちょうど到着して、佐々木が降りてきた。
「あ、佐々木君、おつかれ」
「あ、結衣ちゃん、おつかれ。ちょうど良かった、今日、なんちゃら会だろ?」
「あ、うん。のんべえ会ね」
「あ、それそれ。今、下で木村と会って、場所変わったから結衣ちゃんに伝えといてって言われた」
「え?」
「今日、和味貸し切りで埋まってるらしいよ」
「そうなんだ」
灯影(ほかげ)って店、知ってる?」
「知らない」
「駅前だよ。調べてみ」
「あ、うん。わざわざありがとね」
 エレベーターの扉が閉まりかけ、慌ててボタンを押した。
「あ、木村で予約してるって」
「了解。ありがと~」
 結衣はエレベーターに乗り込み、中から佐々木に笑顔で手を振った。一階のショールームを覗いたが、まさやんの姿はなかった。もう店に向かったのだろう。
 まさやんやなかじーが極端に佐々木を嫌っているだけで、実際はそこまで悪い人間ではないのかもしれないと思える。確かに佐々木は酒癖が悪い。けれど、会社では特に問題を起こすことはないし、営業成績も悪くはない。ただ、女好きなのは一目でわかる。それでも、常に見た目を意識して、頭の先から爪先まで、常に身だしなみが整っている佐々木を目にすると、並々ならぬ努力も伺えるし、モテるだろうなとも思う。
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