あなたの可愛いおへそのくぼみ

 末莉と宥仁。子ども時代は仲の良かったふたりだが、宥仁の中学受験を期にその関係は変化していった。

『模試の結果が良くなくてさ。来週から毎日塾なんだ。もう末莉とは遊べない』
『そっか……。頑張ってね』
 それまでのふたりは毎日のように放課後ゲームをしたり、マンガを読んだりして過ごしていた。空気のように一緒にいるのが当たり前の日々だったのに。

 遊ぶのを断られた日。落ち込んで家に戻り、そのことを話すと母親は眉を下げた。
『しょうがないわよ。宥仁くんのパパは厳しいからね』

 どちらかというと放任主義の末莉の家とは違い、宥仁の父親は教育熱心な人だった。宥仁が一人っ子だったのもあり、期待が大きかったのかもと今では思う。
 
 頭の良かった宥仁は父親の期待に応え、難関とされる学校に進んでいった。かなり努力をしていたようだ。大学受験の前など、見るたびに目の下に隈を作っていた記憶がある。

 末莉はそのころ、専門学校に進むことも決まり、好きなイラスト制作に没頭していた。きっかけは思い出せないが、その作品を宥仁に見せたことがある。好きな魚のモチーフで、金魚をデザイン画っぽく描いたイラストだった。

『良いよな、末莉は。毎日好きなことが出来てさ……』
『……』

 宥仁の何気ないひと言だったが、末莉はそれから何も言えなくなってしまった。彼の疲れた口調や、いろんな事を諦めたような瞳を見てしまったからだ。

(ユージンに、好きだって言おうと思ったこともあったけど―――)

 でも言えなかった。あんな状態の彼には、何をしてもきっと上手くいかなかった。末莉は今でもそう確信している。

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