あなたの可愛いおへそのくぼみ
 翌日、宥仁から早速連絡があった。月曜の仕事帰りに呼び出され、末莉は繁華街にある人気の中華料理屋の前に来ていた。

「末莉、昔は中華好きだったよな?ここなら外さないかと思って」
「今でも好きだよ!久しぶりに食べたいと思ってたんだ。でもおばさんの夕飯は大丈夫?」
「俺の母さんなら、いまごろ末莉のお母さんと出前寿司とって一緒に食べてるぞ」
「何それ!?聞いてないんだけど!」

 なるほど。今朝母親が、妙に機嫌よく宥仁との食事を快諾してくれたわけだ。何も知らされていないことに拍子抜けしてしまった。ちなみに末莉の父親はいま、絶賛単身赴任の最中だ。

 宥仁は中華のコースを予約してくれていた。席につくと次々に料理が運ばれてくる。
 テンションの上がった末莉は、円形のテーブルをくるくる回し好きな料理をたくさん小皿に盛り付けた。

「ユージンと二人で中華料理食べてるなんて、変な感じ」
「本当にな。あ、牛肉をクレープで包むやつ来たぞ」
「それ一番好きなやつ!」
「食べろ食べろ」

 宥仁はテーブルをくるりと回し、牛肉のチャイナクレープ包みを末莉の前に持ってきてくれた。さっそく薄い皮の上に、味噌で味付けされた肉とキュウリをたっぷりと乗せ、端から丁寧に巻いてかぶりつく。

「美味しい~!中華最高!」
「中華料理って、何気に家族以外と食べたことないかも。末莉が初めて」
「そういえば私もだ。友だちや彼氏とだと、お洒落なお店選びがちだからね」
「彼氏」
「今はいないけど」
「ふうん」

 会話の途中で、宥仁の片眉がぴくりと上がった。彼の機嫌が悪くなるときの癖だ。

「……ごめん、もしかして私、ユージンの分まで食べてた?」
「え?いや、そんなことないけど。むしろもっと食べろよ」
「さすがにお腹いっぱいになってきたよ」

 末莉は膨らんできたお腹をなでる。宥仁はいつもの様子に戻っていて、皿に残っていた料理を平らげていた。あの一瞬、何が宥仁の機嫌を損ねたか分からず、末莉は首をかしげた。


 代金は宥仁が誘った手前払うと言ってくれたので、ありがたく出して貰った。

「ありがとね。今度は私がおごるよ」
「じゃあマックとか行くか」
「ええ?落差がすごいね」
「今更だけど。地元(こっち)ではそういうとこ、全然行かずに過ごしてたからな」

 そうだろうな、と末莉は思う。中学から離れたので詳しくは知らないが、宥仁は実家にいた頃、ろくに遊ばず勉強漬けの毎日だっただろう。なんとなく想像できた。
 彼は確かに頭は良かったが、天才肌という感じではない。進学校に入ってからの成績はかなりの努力で維持してきたはずだ。

「ユージンは勉強、すごく頑張ってたものね」
「ああ……そうだな」
 
 繁華街の灯りを見ながら、宥仁はつぶやくように答えた。

< 6 / 12 >

この作品をシェア

pagetop