変わるなら今
そう言うと、蒼井さんは身体と視線を私の方に向けた。凛とした瞳で、まっすぐに。少し真剣な表情に見える。
「今、この状況を変えないと、あなたは必ず後悔することになる。変わるなら、今よ」
彼女はそう言うと、静かに私の横を通り過ぎて、教室から出ていった。再び一人になった教室で、私は暫く立ち尽くしていた。

翌日の数学の授業中。
「……これは試験に出すから、しっかり把握しておくように。では、次の問題を…」
先生が生徒を指名し、その人が黒板に答えを書いているのを眺めながら、私は昨日のことを思い出していた。昨日言われた、蒼井さんからの言葉。
この状況を変えなければ後悔することになる。変わるなら今だ、と。
昨日、学校から家に帰ったあとも、そのことが頭から離れなくて、正直落ち着かなかった。意味が分からないというのと、何より、彼女と会話したのが、あれが初めてだったからだ。昨日のこともあって、気まずさを感じながら教室に入ったけど、当の蒼井さんはいつも通り、何もなかったかのように、一人で席に着いて過ごしていた。昨日のことがどういうことなのか聞きたかったけど、何をどう聞けば良いのか分からずうじうじしているうちに授業が始まり、聞くタイミングをなくしてしまった。
後悔する……変わるなら、今……。
数学の教科書に視線を落としながら考える。
今変えないと後悔するというのは多分、美華達との関係をどうにかしろ、ということ。きっと、美華達とは決別した方が良いということ。蒼井さんは、昨日の放課後の私達の様子を見て、そう言ったんだと思う。確かに、美華、沙紀、杏奈は、強引で我儘なところがあって、頼まれ事も多い。それに少しでも嫌なことがあるとすぐ怒り、私に八つ当たりをする。昨日の文化祭の実行委員のことだけじゃない。美華達から課題を頼まれた翌日、私が風邪を引いて学校に来れなくなり、その翌朝、教室に入ったら美華達から大目玉を食らったこと、課題を持ってくるのを忘れたらその日は話しかけてくれなかったこと…。正直これが続くと疲れるし、不満も感じる。けれど、三人との関係を断ったら、せっかく仲良くできたのに、また一人になってしまう。ぎゅっと拳を握りながら思った。私には、そんな勇気なんてない。一人ぼっちには、なりたくない。

 授業終了の鐘が鳴り、「最後できなかった問題は宿題にするから、明日までにやってきてね」と言うと同時に、数学の先生は教材を手に教室から出ていった。生徒達は皆席を立ち、友達と固まってお喋りしたり、次の授業の準備をしたりと動いていく。私も次の授業である社会の教科書とノートを取り出そうとした時、「由―麻!」と聞き覚えのある明るい声と同時に、ドンッと肩を叩かれた。振り返ると、いつも通り、美華、沙紀、杏奈が満面の笑顔で立っている。
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