傷物だと国を追い出された私、獣人の国の皇弟殿下が「君は世界一美しい」と溺愛して離してくれません!?
第6話 歓迎

 
 船が岸壁に近づくにつれ、音が大きくなっていった。

 波の音でも、船が軋む音でもなくて人の声だ。港に集まった人々の声が、船の上まで届いてきた。

 リネットは甲板に出て、欄干に手をかけた。

 黒かった。

 港全体が、黒かった。桟橋も、倉庫も、積み上げられた荷物も、エルフェリアの白い港とは全く違う色をしていた。黒曜石で作られた石造りの桟橋は重厚で、鉄の装飾が随所に施されていた。旗が風にはためいていた。帝国の旗。黒地に金の獣の紋章。

 だが、その黒の中に色があった。

 花だ。

 桟橋の入口に、鮮やかな赤い花が飾られていた。その向こうの街に続く道の両脇に、橙色や黄色の花が並んでいた。エルフェリアの白い花とは全く違う、はっきりとした色の花たち。

 そして人がいた。

 たくさんの人が、桟橋の向こうに集まっていた。獣人が多かった。大きな耳を持つ者、長い尻尾を揺らす者、体格のいい者、小柄な者。人間もいた。エルフのように見える者もいた。老いも若きも、子供も、皆が港の方を向いて立っていた。

 そこから声が来ていた。

 聞き取れない帝国語が混じっていたが、「アーク様」という声は聞こえた。「王女殿下」という言葉も聞こえた。

 白い目ではなかった。

 リネットはそれを見た瞬間に、そう思った。エルフェリアで受けてきた視線とは、種類が違った。遠目でもわかった。あちらの目は、こちらを排除しようとする目だった。だがここから見える目は、そうではなかった。

 船が停まった。

 タラップが下ろされた。

 アークが先に降りた。リネットはその後に続いた。タラップを踏む足が、少し緊張で固かった。

 地面に足がついた瞬間、声が大きくなった。

 リネットは人の多さに少し目が眩んだ。反射的に、右腕を体の横に引いた。傷跡を隠す動作だった。今日は袖が短いから、端が見えている。それを隠そうとして、でも途中で手が止まった。

 アークが隣に来ていた。

 ぴったりと、リネットの左隣に立っていた。リネットの肩が、アークの腕のあたりに来るくらい近かった。大きな体が、リネットの左側を覆うような位置に立っていた。


「もう下を向かなくていい」


 耳元で、低い声がした。

 囁き、と呼ぶには静かすぎる声だった。周囲の歓声に紛れて、リネット以外にはほとんど聞こえなかっただろう。だがリネットには確かに聞こえた。

 もう下を向かなくていい。

 リネットは視線を上げる。

 すると、人々が見えた。笑っている顔が見える。
 手を振っている人が見えた。子供が親の肩の上から身を乗り出している姿が見えた。

 その中に、一人の少女がいた。

 リスの獣人だった。丸い耳を持つ、十歳前後の少女が、人混みの端で背伸びをしながらこちらを見ていた。目が合った。少女が大きく手を振った。満面の笑みで、迷いなく。

 リネットは少し驚いた。

 自分に向けて、あんなふうに笑いながら手を振ってくれる人を、数えるほどしか知らなかった。メアリーがそうだった。セリオはしなかったが、それはセリオの性格だから仕方なかった。だがそれ以外には、ほとんどいなかった。

 少女が待っていた。まだ手を振っていた。

 リネットは、右手を上げた。

 傷のある方の腕で、手を振った。

 少女の顔が、さらに明るくなった。隣にいた友人と顔を見合わせて、二人で笑い合った。その笑い方は、嘲っているのではなかった。嬉しくて、弾んでいる笑い方だった。

 リネットは胸の奥が、何かで満たされていく感じがした。

 何と表現すればいいのか、わからなかった。嬉しい、という言葉が最も近かったが、もう少し深いところにある感覚だった。ずっと欠けていた何かが、少しだけ補われたような。


「アーク様!」
「殿下!」
「お帰りなさいませ!」


 声が続いた。アークに向けた声が多かった。アークは表情を変えずに、だが軽く手を上げて応えていた。
 その仕草が、この人にとっては日常なのだとわかった。帰ってきた、という感じがした。ここは、アークにとっての場所だった。

 そしてこれから、自分の場所にもなる。

 リネットはもう一度、人々を見た。白い目がなかった。ただそれだけで、もう十分だと思った。




 宿に向かう道は、港から街を抜けていく道だった。

 護衛たちに囲まれて歩いた。アークが先を歩き、リネットはその少し後ろについた。メアリーとシャロンはさらに後ろにいた。

 街が、賑やかだった。

 屋台が並んでおり、食べ物の匂いがした。香辛料の香りと、焼いた肉の匂いと、甘い何かの匂いが混ざっていた。

 荷物を運ぶ人たちが声を掛け合っていた。子供が走っていた。犬に似た獣人の子供が、同じくらいの年の人間の子供と追いかけっこをしていた。

 リネットは見るものが多くて、視線がそちこちに動いた。

 雑貨屋の店先に、見たことのない色の布が飾られていた。深い藍色に、金の糸で刺繍が施されている。美しかった。

 食べ物の屋台では、大きな鉄板の上で何かが焼かれていた。香辛料の香りが強くなった。

 花売りの老婆が店先に座っていた。色とりどりの花が並んでいた。エルフェリアでは見ない種類の花が多かった。

 一方で、精霊の姿はほとんど見えなかった。エルフェリアの街には精霊がそこかしこにいたが、ここにはまだ少なかった。船の上でついてきていた精霊たちは、港に着いてからどこかへ行ってしまっていた。

 どこに行ったのだろう、と思いながら歩いていると。

 道の端に咲いている花の陰で、小さな光が揺れているのが見えた。

 精霊だった。

 だが、エルフェリアの精霊とは少し違った。小さくて、丸くて、色が薄い。弱々しいというより、まだ慣れていないような、遠慮がちな揺れ方をしていた。

 この土地の精霊か、とリネットは思った。帝国にも精霊はいる。ただ数が少ないのかもしれない。

 精霊がリネットを見た。驚いたように、ぱっと輝きが強くなった。

 リネットは視線だけで「こんにちは」と伝えた。精霊が揺れる。それから、道の奥に向かって飛んでいった。何かを知らせに行くような動き方だった。


「足が止まっていたが、何かあったか?」


 アークの声がした。振り返ると、アークがリネットの横に来ていた。


「いいえ、花が綺麗で」


 リネットは咄嗟に答えた。精霊のことは、まだ言えなかった。

 アークが花の方を見た。


「この辺りの道端に咲く花は、帝国でよく見られる種類なんだ。踏まれても踏まれても咲き続ける花だ。エルフェリアには咲かないのか? 」

「咲かないと思います。エルフェリアは寒い地域ですから、こんなに色の濃い花はあまり……」

「そうか。なら帝国の花はどれも珍しいだろう。グレイフォートに行けばまた種類が変わる。あの土地は今はまだ少ないが、春になれば少し増える」

「グレイフォート……」


「私が治める辺境の地だ。帝都からさらに北にあるんだ。荒野が多い。それに花が少ない。雪も降る。エルフェリアほどではないが」

「あなたの地なんですね」

「長いこと、そこを守ってきた。気に入るかどうかはわからないが、あなたの家にもなる」

 ……あなたの家。

 その言葉が、思いの外はっきりと胸に届いた。今まで、自分の「家」と思えた場所がなかったからかもしれない。
 屋敷は閉じ込められていた場所だった。王城は居心地が悪かった。生まれた時からいたはずなのに、一度も「ここが家だ」と思えた場所がなかった。


「楽しみにしています」


 リネットは言った。また、楽しみにしている、という言葉を言っていた。航海の最後の夜の星の話に続いて、今日で二度目だった。

 アークが少し視線をリネットに向けた。何かを言おうとして、言わなかった。代わりに「行こう」と言って歩き始めた。



   ***


 宿は、港の目抜き通りを抜けた先にあった。

 オブシディアン・ハウル・イン。黒曜石の建物で、三階建ての堂々とした構えだった。扉の脇に、帝国語で何か書かれた看板が出ていた。

「帝国の上級貴族や皇族、外国の賓客も泊まる宿なんだ」

 アークは説明をすると、中へと入る。

 中に入ると、吹き抜けのホールがあった。黒い石の柱が並び、天井から大きな灯りが下がっていた。フロントには人間の女性がいて、アークを見て挨拶をして礼をとった。


 リネットたちは上階の部屋に案内された。

 皇族専用の部屋だった。広くて、窓から港が見えた。エルフェリアの城の客室とは趣が全く違ったが、豪奢であることは変わらなかった。
 黒い木の家具と、深い赤のカーテン。暖炉が既に火が入っていて、部屋が温かい。

 メアリーとシャロンがてきぱきと荷物を部屋に運び込んだ。

 リネットはソファに腰を下ろした。今日一日で見たものが、頭の中でまだ動いていた。

 港の人々の顔。少女の笑顔。花。屋台の匂い。精霊の光。

 扉がノックされた。

 アークだった。


「少し休めたか」

「はい」

「よければ、街を見て回らないか。疲れているなら断ってくれて構わない」


 リネットは少し驚いた。そういう誘い方をされるとは思っていなかった。

 断ってくれて構わない、という言葉が付いていた。強制ではなかった。断れる余白が最初から用意されていた。


「……行きたいです」


 リネットは答えた。

 行きたい、と思った。
 外に出たかった。

 さっき通り過ぎた屋台の匂いが、まだ記憶に残っていた。あの雑貨屋の布がどんな模様だったか、もっと近くで見たかった。

「そうか。では行こう」



 護衛を最小限にして、街に出た。

 アークは変装もせず、そのまま歩いた。それでも街の人々はさほど騒がなかった。
 帝国皇弟が街を歩くのは珍しいことではないのかもしれなかった。声をかけてくる者はいたが、馴れ馴れしくはなく、礼をとりながら「お帰りなさいませ」と言う程度だった。アークがそれぞれに短く答えながら進んだ。

 リネットは隣を歩く。

 屋台が並ぶ通りに差し掛かった。さっきよりも人が増えていた。夕方に近づくにつれ、仕事を終えた人々が集まってくるのかもしれない。

 一つの屋台の前で、リネットは足を止めた。

 丸い頭のリスの獣人の店主のおばさんが、大きな果物を切って絞っていた。橙色の果汁がガラスの杯に注がれていた。


「果実水だ。この港で採れる果物で作る。名産品なんだ」

「美味しそうですね」

「だろう?」

 アークが何か言い掛けた時、店のおばさんが顔を上げてアークを見た。


「殿下じゃないですか!」


 そう言ったおばさんの声が大きかった。

 それに対して「久しぶりだな」とアークが返す。


「本当に。それで、そちらのお嬢さんは?」


 おばさんの視線がリネットに移った。

 まんまるの目で、まじまじと見られた。圧迫感はなかった。ただ非常に熱心に見られた。


「もしかして、殿下のお嫁さんですかい!?」


 大きな声だった。

 周囲がそちらを向いた。

 リネットは一瞬、体が固まった。多くの視線が自分に向いた。慣れた形で、肩が少し内側に入りかけた。


「なんて可愛らしいんだ」


 そんな声がした。


「殿下もやっとですか」


 別の声がした。


「よかった、よかった」


 また別の声がした。

 白い目などなかった。

 どの顔も、好意的だった。驚いているようで、だが嬉しそうだった。
 リネットを排除しようとする目が、一つもなかった。

 リネットは、肩から力が抜けていくのを感じた。おばさんが果実水の杯を差し出してきた。


「帝国は初めてかい?」

「はい。初めてです……今日、到着したところで」

「そうなんですか。どうぞ、試してみてください」


 メアリーが横から手を出して、杯を受け取った。
 見知らぬ土地の飲み物を王女が直接受け取るのは、護衛の立場として止めるべきだ、という判断だろう。おばさんは一瞬きょとんとしたが、すぐに「そうですよね、失礼しました」と言った。

 おばさんの顔に傷ついた様子はなかった。

 メアリーが確認してから、リネットに杯を渡した。

「こちらこそ、すみません。いただきます」


 リネットは受け取って、一口飲んだ。

 甘くて、酸っぱかった。でもそれ以上に、果物の香りが口の中に広がった。エルフェリアでは飲んだことのない味だった。


「美味しい、です。とても、美味しいですっ」


 思わずそんな言葉が出た。心からの言葉だ。

 おばさんが顔をくしゃりとさせて声を出して笑う。

「そう言ってもらえると嬉しいです。殿下のお嫁さんなら、もう一杯サービスしますよ」

「あ、ありがとうございます。ですが、お金はちゃんと払います……先ほど、お金を帝国貨幣に変えてもらったんです」

 船を降りる前に外交官の方にお願いして帝国貨幣にしてもらったのだ。


「おいくらですか? 私、街でお買い物は初めてで……基準がわからないんです」

「銅貨三枚なんだが、初めて割引で銅貨一枚にするよ」

「えっ、でも……それではご商売にはならないのではないでしょうか?」

「いいんだよ。本物の姫様にお会いできたことだけでも嬉しいんだ。それに最初からお金を取る気はなかった」


 おばさんは嬉しそうに言うと「それにこの国を好きになってもらいたいって言うのが本音だ」とリネットに言った。

 リネットはお礼を言い、メアリーにお財布を出してもらってお金を払う。

「申し遅れました、エルフェリア聖国から参りました。リネット・エルフェリアと申します。どうか、よろしくお願いいたします」

 先日習ったばかりの、帝国マナーの本を思い出しながら礼をする。

「そんなご丁寧に、私どもなんぞに礼なんて……!」

「いいえ、これからお世話になるのです。当たり前のことです」


 そう伝えると、周囲からまた声がした。


「なんて素敵な姫君なのだ! 殿下のお相手がこんなに素敵な方なんて」


 おばさんがリネットに感動していれば、周りからも声がかかる。


「後で串焼き食べにきてな」
「うちの魚も食べてってください」


 といった向かいの屋台のおじさんたちが言った。

 リネットはその声たちを聞きながら、どう答えていいか少しわからなかった。嬉しいのか戸惑っているのか、自分でも判断がつかなかった。ただ、逃げたいとは思わなかった。それだけははっきりしていた。


「ありがとうございます。いただきます」





 広場に面した屋台で、串焼きを買った。

 鶏と海鮮の二種類があってアークが両方買った。広場のテーブルに二人で座る。
 護衛たちは少し離れた位置で同じ串焼きや果実水を購入して座っていた。


「鶏の串焼きと海鮮の串焼きだ。帝国全体で鶏は名産品だ。海鮮はこの港で採れる魚介で、ここの名産だ」


 アークが説明しながら、串を手に取った。そのままかぶりついた。

 リネットは目が丸くなった。そんなふうに食べる人は初めて見た。というか、貴族ではいない。

 アークの口元と手に濃いタレがついた。帝国の皇弟が、タラップも使わず、カトラリーも使わず、そのままかぶりついた。

 それが、どういうわけか、ひどく自然だった。

「どうした? 王女も食べなさい……あ、食べ方がわからないか」

「はい……かぶりつくんですね」

「そうだ。すまない、カトラリーを借りてくるよ」

「い、いえ」


 リネットは串を持った。

 かぶりつく、という行為を、今までしたことがなかった。テーブルマナーでそういうことをしてはいけない、と物心つく前から刷り込まれていた。だが今ここには、そのマナーを気にする人間はいない。アーク自身が今まさにやっている。


「私は、帝国の人間になるんですから」


 リネットは呟いてから、串の先の鶏肉に口をつけた。

 熱かった。

 本当に熱くて、口の中が驚いた。それと同時に、スパイスの香りが鼻を抜けた。肉汁が出てきた。柔らかかった。口の中でほどけるような柔らかさで、食べたことのない味だった。

 気がついたら、一口では終わらなかった。もう一口。また一口。串の端まで食べてしまった。


「殿下、これはとても美味しいです」


 言ってから、少し恥ずかしくなった。こんな食べ方をして、夢中になって、と思ったが、アークが「だろう」と言った声は、咎める調子ではなかった。


「よかった。王女に喜んでもらえて」


 アークが言った。それから護衛として後ろについていたメアリーたちに「あなたたちも食べなさい」と声をかけた。

 メアリーが少し驚いた顔をした。それからシャロンと顔を見合わせて「では遠慮なく」と言って食べ始める。

 広場のテーブルに、夕方の光が当たっていた。人々の声が聞こえた。屋台の匂いがした。アークが二本目の串を手に取っていた。

 リネットは海鮮の串に手を伸ばした。

 これだけのことなのに楽しい、と思った。

 この言葉も、最近使うようになっていた。七日間の航海の中でも、帝国に着いてからも、少しずつ、この言葉が頭の中に浮かぶことが増えていた。


「こんなに人と一緒に食べるのは、初めてかもしれません」


 声に出ていた。

 アークが少し動きを止めた。リネットの方を見た。


「そうか」

「はい。屋敷では一人で食べることが多くて。メアリーがいましたが、主人と侍女では一緒の席には」


 言いながら、言いすぎたかもしれない、と思った。

 だがアークは何も言わなかった。ただ、もう一本の串を黙ってリネットの方に差し出した。


「まだあるから食べなさい」


 それだけだった。

 リネットは受け取った。


「はい。いただきます」


 広場に夕風が吹いた。屋台の灯りが揺れた。メアリーたちの笑い声が遠くから聞こえてきた。

 リネットは串焼きを持ちながら、少しだけ唇の端を持ち上げた。

 誰かに見られているわけではなかった。アークは別の方向を向いていた。だからその笑顔は、自分だけのものだった。

 ただ、誰かと並んで座って、同じものを食べながら、夕方の広場にいることが、今夜だけは、少し温かかった。

 宿に戻る夜道は、行きよりも静かだった。

 人の数が減っていた。屋台の灯りが一つ二つと消えていた。遠くから、波の音が聞こえた。

 アークが宿の扉の前でリネットに向いた。


「今日は疲れただろう。しっかり休みなさい」

「はい。今日は……ありがとうございました」


 アークはしばらくリネットを見ていた。


「おやすみなさいませ」

「ああ」


 扉の中に入った。

 温かい部屋だった。暖炉の火がまだ残っていた。メアリーが先に帰っていて、寝台の準備をしていてくれた。


「王女様が楽しそうに食べているのを見たのは、お仕えしてから初めてです」

「そうですか?」

「はい。本当に。とても嬉しいです」


 リネットはソファに座った。手にまだかすかにタレの匂いが残っている気がした。帝国のスパイスの匂いだった。

 今日は眠れそうだった。

 精霊たちはどこかへ行ったままで、今夜は部屋に見当たらなかった。明日の朝にはまた姿を見せてくれるかもしれなかった。

 窓の外に港の灯りが見えた。黒曜の港。黒い石と金の装飾。赤い花と、橙色の屋台の灯り。

 リネットは目を閉じた。

 帝国の最初の夜が、静かに更けていった。
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