友達以上恋人未満
第10話:一歩引くための嘘
「あ、由良! 今日こそ駅前のラーメン屋――」
放課後、終礼のチャイムが鳴ると同時に私の席にやってきた楓の言葉を、私は遮るようにカバンを肩にかけた。
「ごめん楓、今日はパス。美奈ちゃんと本屋に行く約束があるから」
「え……? また朝比奈さん? 最近お前ら、いっつも一緒じゃん」
楓が明らかに不満そうな顔をして、眉間にシワを寄せる。その表情に胸がズキリと痛んだけど、私はわざと大げさに笑ってみせた。
「いいじゃん、女子の友情を邪魔しないでよ。ほら、美奈ちゃん行こ!」
教室の入り口で遠慮がちに待っていた美奈ちゃんの手を引き、私は逃げるように教室を飛び出した。
後ろから楓が「チッ、なんだよ……」と小さく舌打ちする声が聞こえた気がしたけれど、振り返ることはできなかった。
あの日、雨の日に自分の傘を美奈ちゃんに貸して以来、私は意図的に楓と距離を置くようになっていた。
美奈ちゃんから、相合い傘のときの「男の子な楓」の話を聞いてしまったから。そして何より、楓が美奈ちゃんとLINEを交換し、確実に2人の距離が縮まっているのを知ってしまったから。
『2人の邪魔をしたくない』
それが表向きの、きれいな理由。
でも本当は――2人が楽しそうにしている姿をこれ以上近くで見たら、自分がどんな顔をしてしまうか分からなくて、怖かったのだ。
「あの、由良ちゃん……本当に私なんかと本屋さん、良かったの? 楓くん、また怒ってたみたいだけど……」
校門を出たところで、美奈ちゃんが申し訳なさそうに私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫、大丈夫! あいつはただ、ラーメンの道連れが欲しかっただけだから。それより美奈ちゃん、この前のLINEの続き、どうなった?」
「あ、えっとね、あの後お勧めの動画の感想がちゃんときて……!」
美奈ちゃんが嬉しそうにスマホを取り出す。
その恋する女の子の笑顔を守るためなら、私のつく嘘なんて、安いものだ。
「……あ」
歩きながら、ふと自分の右手のひらを見る。
いつもなら、この帰り道、楓とくだらないことで言い合って、私のこの手を楓がふざけて叩いたり、荷物を押し付け合ったりしていた。
今、私の右隣には、誰もいない。
ただの友達。一番の親友。
その特等席を守るために、私は自分から一歩、引くことを選んだ。
これでいい。これが正解なんだ。
隣を歩く美奈ちゃんの楽しそうな声をBGMに、私は夕日に向かって、乾いた嘘の笑顔を浮かべ続けた。
放課後、終礼のチャイムが鳴ると同時に私の席にやってきた楓の言葉を、私は遮るようにカバンを肩にかけた。
「ごめん楓、今日はパス。美奈ちゃんと本屋に行く約束があるから」
「え……? また朝比奈さん? 最近お前ら、いっつも一緒じゃん」
楓が明らかに不満そうな顔をして、眉間にシワを寄せる。その表情に胸がズキリと痛んだけど、私はわざと大げさに笑ってみせた。
「いいじゃん、女子の友情を邪魔しないでよ。ほら、美奈ちゃん行こ!」
教室の入り口で遠慮がちに待っていた美奈ちゃんの手を引き、私は逃げるように教室を飛び出した。
後ろから楓が「チッ、なんだよ……」と小さく舌打ちする声が聞こえた気がしたけれど、振り返ることはできなかった。
あの日、雨の日に自分の傘を美奈ちゃんに貸して以来、私は意図的に楓と距離を置くようになっていた。
美奈ちゃんから、相合い傘のときの「男の子な楓」の話を聞いてしまったから。そして何より、楓が美奈ちゃんとLINEを交換し、確実に2人の距離が縮まっているのを知ってしまったから。
『2人の邪魔をしたくない』
それが表向きの、きれいな理由。
でも本当は――2人が楽しそうにしている姿をこれ以上近くで見たら、自分がどんな顔をしてしまうか分からなくて、怖かったのだ。
「あの、由良ちゃん……本当に私なんかと本屋さん、良かったの? 楓くん、また怒ってたみたいだけど……」
校門を出たところで、美奈ちゃんが申し訳なさそうに私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫、大丈夫! あいつはただ、ラーメンの道連れが欲しかっただけだから。それより美奈ちゃん、この前のLINEの続き、どうなった?」
「あ、えっとね、あの後お勧めの動画の感想がちゃんときて……!」
美奈ちゃんが嬉しそうにスマホを取り出す。
その恋する女の子の笑顔を守るためなら、私のつく嘘なんて、安いものだ。
「……あ」
歩きながら、ふと自分の右手のひらを見る。
いつもなら、この帰り道、楓とくだらないことで言い合って、私のこの手を楓がふざけて叩いたり、荷物を押し付け合ったりしていた。
今、私の右隣には、誰もいない。
ただの友達。一番の親友。
その特等席を守るために、私は自分から一歩、引くことを選んだ。
これでいい。これが正解なんだ。
隣を歩く美奈ちゃんの楽しそうな声をBGMに、私は夕日に向かって、乾いた嘘の笑顔を浮かべ続けた。