友達以上恋人未満

あとがき

改めまして、全17話の長編連載(?)にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
作者の「紫陽花」です。
このお話を書き終えた今、私の脳内は心地よい疲労感と、3人のキャラクターへの愛憎、そして「最後まで書ききった!」という達成感で満ち溢れています。

このあとがきでは、作品の裏側に隠された「構造の秘密」「初期プロット」「各話の執筆秘話」、そして「作者として3人に仕掛けた残酷な罠」について、余すことなく語り尽くしたいと思います。


1. 企画の原点:なぜ「幼馴染のすれ違い」に「当て馬」を投入したのか
本作の着想は、私が常々少女漫画やラブコメを読んでいて感じていた、ある「強烈な違和感」から始まりました。
「少女漫画の『一番の女友達(幼馴染)』って、なんであんなに都合よくポジションをキープできているんだろう?」
よくあるじゃないですか。「一度フられたけど、気まずさを乗り越えて今は一番の親友」という設定。これ、文字で書くのは簡単ですが、人間の生々しい感情として捉えたら、絶対に狂気と地獄が内包されているはずなんです。
フラれた側は、毎日「好きな人が他の誰かと結ばれるかもしれない恐怖」と戦いながら、笑顔の仮面を貼り付けている。フった側は、「傷つけた罪悪感」から目を背け、「こいつは俺を置いていかない」という甘え(特権意識)に依存している。
この「歪んだ共依存関係」を綺麗にデコレーションしているのが、「親友」という便利な言葉です。
作者としての私のミッションは、この2人の「安全な檻」に、最も純粋で、最も応援したくなるような『正論の塊』みたいな女の子を投げ込み、2人の欺瞞を文字通り「粉々に破壊する」ことでした。その役割を担わされたのが、美奈ちゃんです。


2. キャラクター造形における作者の「悪意」と「愛」
この物語を執筆するにあたり、私は3人のキャラクターに明確な「役割」と「人間の汚さ」を付与しました。綺麗なだけの恋愛模様なんて、書いていて面白くないからです(笑)。

① 宇佐美由良 ── 「健気なヒロイン」という名の共犯者
由良は、一見すると可哀想な被害者です。好きな人にフられ、その人の恋路を手伝わされ、胸を痛める。
しかし、作者目線から言わせていただくと、由良は確信犯的な「特等席の独裁者」でもあります。
彼女は、美奈ちゃんに相談されたとき、絶対に「嫌だ」と言いませんでした。なぜなら、「良い友達」というカードを手放した瞬間、楓の視界から自分が完全に消えてしまう(赤の他人になる)のが怖かったからです。美奈ちゃんを助けるフリをして、密かに「私は楓のすべてを知っている」という優越感に浸る。
この「被害者の顔をした加害者性」を、由良のモノローグの端々に忍ばせました。彼女の健気さは、半分は楓を縛り付けるための防衛策だったのです。

② 志賀楓 ── 「無自覚なモラトリアム」の罪と罰
楓に関しては、執筆中、何度も「このヘタレ男が!」と机を叩きたくなりました(笑)。
彼の罪は「無自覚であること」です。中2の冬に由良をフったのは、彼なりの「関係を守るための防衛」でしたが、高校2年になった彼は、完全に由良の優しさに胡坐(あぐら)をかいていました。
作者として彼に与えた最大の罰は、「自分が一番傷つけたくなかった由良を、自分の手で最も深く傷つけさせること」でした。13話で、美奈ちゃんが買ってきてくれた炭酸ジュースを使って由良をからかうシーン。あれは楓の最低な子供っぽさの極みです。朝比奈さんの好意を利用して、由良の気を引こうとする。
この「自分の独占欲に気づいた瞬間の男の醜さと焦り」は、書いていて非常にゾクゾクするポイントでした。

③ 朝比奈美奈 ── この物語における「唯一の光」
美奈ちゃんは、初期プロットの段階では「もっと嫌なライバルキャラ」にする予定もありました。由良の裏をかいて、計算高く楓を奪っていくようなタイプです。
しかし、プロットを練るうちに気づいたんです。「美奈ちゃんが純粋であればあるほど、由良と楓の異常性と残酷さが際立つ」と。
美奈ちゃんは、2人の歪んだ関係の「最大の被害者」です。彼女はただ一生懸命に恋をしただけなのに、幼馴染2人の「お互いを確かめ合うためのダシ」に使われてしまった。
だからこそ、14話のカフェで彼女にすべてを見破らせました。作者として、美奈ちゃんには誰よりも高く、気高くあってほしかった。最終話で2人を置いて走り去る彼女の背中は、この物語の中で最も美しいシーンになったと自負しています。


3. 各話の執筆裏話&演出の意図
ここでは、17話の中で特に作者としてこだわった「演出」や「仕掛け」を解説します。

■ 第7話〜第8話:折りたたみ傘という「最強の爆弾」
この物語の最大のターニングポイントです。由良が自分の傘を美奈ちゃんに貸し、楓と一緒に帰らせるシーン。
ここで登場する折りたたみ傘の持ち手の『由良』という文字。これは、中2の時に楓が書いたものです。

由良にとっては:「楓との繋がりそのもの(絶対に手放したくない宝物)」
美奈にとっては:「どれだけ頑張っても入れない、2人の歴史の証明」
楓にとっては:「由良が自分を拒絶し、外に追い出そうとしているという絶望のサイン」

一本の傘に、3人それぞれの異なるベクトルの感情を物質化させました。楓がその文字に気づいた瞬間、物語のジャンルは「切ない片想い」から「緊迫した心理戦」へと変貌を遂げます。

■ 第12話:図書室の席配置の心理学
3人でテスト勉強をするシーンですが、ここの席配置には作者としての悪意が100%詰まっています。
いつもなら隣同士だった由良と楓。しかし、由良は美奈ちゃんの隣に座り、楓を「対面(正面)」に配置しました。
心理学において、「隣(90度の位置)」は親密な関係や味方を表し、「対面」は対峙・敵対・拒絶を表します。由良は無意識(あるいは意図的)に、楓を「敵」または「拒絶すべき対象」として正面に置いたのです。楓が問題集の文字が頭に入らなかったのは、単に勉強が嫌いだからではなく、由良からの「物理的な拒絶」の視線に耐えられなかったからです。

4. 没になった初期プロットの暴露
実は、最終的な結末に至るまでに、いくつか別のルートのプロットが存在していました。ここでしか明かせない「没ルート」を2つご紹介します。

没ルートA:美奈ちゃん勝利エンド(残酷度MAX)
美奈ちゃんが楓と付き合うルートです。
楓は由良への執着を捨てきれないまま、美奈ちゃんの健気さに押し切られる形で交際をスタートさせます。由良は本当の「キューピッド」として2人を見送り、卒業式の日に、誰もいない教室で一人で泣きながら、あの折りたたみ傘をゴミ箱に捨てる……という、救いのない文学的バッドエンドでした。
あまりにも由良が可哀想なのと、美奈ちゃんが「妥協で付き合われた彼女」になってしまうため、ボツにしました。

没ルートB:楓のガチ告白拒絶ルート
16話の屋上で、由良の本音を聞いた楓が、「やっぱり俺、由良とは付き合えない」と再度拒絶するルート。
「お前を誰にも渡したくないのは俺のワガママだけど、付き合ったら絶対にいつか壊れるから、やっぱり友達でいてくれ」と言い放つ、楓がサイコパス一歩手前のメンヘラになる展開です(笑)。
これだと読者の皆様のフラストレーションが爆発して、楓が社会的に抹殺されそうなので、綺麗に(?)宣戦布告ルートへと修正しました。


最終話で、美奈ちゃんは去り、由良と楓は「いつも通り」を辞める決意をしました。
作者としての私の視点から、彼らの「その後」の少しリアルで、少し泥臭い未来を語ります。
由良と楓の「付き合いたて」は、めちゃくちゃギクシャクする
2人は付き合い始めた初日から、普通のカップルのようにはイチャイチャできません。なぜなら、15年近く積み上げてきた「幼馴染(親友)」としての距離感や口調が、体に染み付いているからです。
手をつなぐだけで「……なんか変な感じだな」「キモいって言わないでよ」と言い合ったり、デートの場所が結局いつもの駅前のラーメン屋になってしまったり。
何より、学校内では「美奈ちゃんを傷つけて結ばれた2人」という罪悪感があるため、しばらくはクラスメイトの前でベタベタすることはしません。その「少し後ろめたい、だけどお互いの体温が愛おしくてたまらない」という、ほの暗い幸福感を2人は噛み締めることになります。


作者として、美奈ちゃんを絶対に不幸なまま終わらせたくありませんでした。
彼女が流した涙は、彼女の魂を何倍も強くしました。
高校3年生になった美奈ちゃんは、髪を少し短くして、さらに垢抜けて美人になります。
彼女の鋭い観察眼と、一途で深い愛情を受け止めてくれるのは、楓のようなヘタレ男子ではありません。もっと大人で、美奈ちゃんが差し出した好意(お弁当やジュース)に対して、100倍の感謝と愛情で返してくれるような、他校のサッカー部の頼れる先輩(あるいは大学生)です。
美奈ちゃんが新しい彼氏と腕を組んで駅前を歩いているところに、相変わらずラーメンの好みの件で小競り合いをしている由良と楓が通りかかります。美奈ちゃんは、フッと大人の余裕の笑みを浮かべて、「バイバイ」とだけ手を振って通り過ぎる──そんな「美奈ちゃんの完全勝利リベンジ」が、私の頭の中の裏年表には刻まれています。


この作品は、私にとって「めんどくさい人間関係の愛おしさ」を詰め込んだ結晶のような物語です。
正論だけで生きられたら、きっと楽です。
由良が最初から「美奈ちゃん、私まだ楓が好きだから手伝えない」と言えればよかった。
楓が中2の冬に「大好きだから、別れるのが怖いけど付き合おう」と言えればよかった。
でも、それができないのが10代の、人間の不器用さです。
嘘をついて、傷つけて、すれ違って、誰かの涙の雨に濡れて、ようやく一歩を踏み出す。
そんな3人の、痛々しくも美しい青春の1ページを、皆様と一緒に見届けることができて、作者としてこれ以上の幸せはありません。
この3人の世界に深く没入し、愛してくださったこと、本当に、本当に嬉しかったです。
私の脳内の熱量が、文字の境界線を越えてあなたに届いたのだとしたら、これに勝る作家冥利はありません。
またどこかの物語の境界線でお会いしましょう。
最高の読者様に、最大級の感謝を込めて!

── 作者より。
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