【二度目の恋は、突然に】片山聖ハイスペ総務部長が推す相手は、削り節の香り
出来ない理由
存分に愛されたその夜を境に、恵那は変わった。
真新しいコンタクトレンズを付けたときのように、世界が明るく、色鮮やかに見えるようになった。
何を見ても、何をしても心が弾む。
それは恵那の装いや行動にも表れ、見る者の目を和ませた。
「若いっていいね~。いるだけで、心が軽くなるよ」
久しぶりに訪れた営業部のフロアで、恵那を目敏く見つけ、言葉をかけた男子社員に同調し、「新しい環境が合うみたいね。今の方が断然いいよ。竹井さん、過去のことは忘れて、そのままの自分でやって行こう?」とエールを送る女子社員。
二人は共にアラサー。就職を機に親元を離れ、都会で一人、暮らす恵那を気遣ってくれる、大切な先輩たちだ。
(新しい環境……)
恵那の心が、ぴくん、と跳ねた。
(やっぱ、皆、知っているよね。裕太さんとのこと。大騒ぎになったから・・・・・・)
フロアの片隅に、目をやる。そこに彼は、いなかった。
竹井恵那、東証スタンダード上場のスポーツアパレルメーカーで働く25才。
本社営業部から海外事業部開設準備室に異動になり、室長の指示の下、資料集めとその整理に勤しんでいるところだ。
容姿は平凡。入社三年目の今でも、定番のダークスーツに薄化粧、髪もゴムで一つに結わえたきりといった就活生のお手本のような格好で出社する純朴娘だが、そんな恵那にも出会いはあった。
本宮裕太、27才。そつなく仕事をこなす営業マン。
爽やかでリーダーシップがとれる彼に、入社後すぐに声をかけられ、食事デートやお花見デートを重ねる内に好きになり、互いの家を行き来する仲になった。
でも、どうしても一線を越えられなくて……。
裕太から求められたことは何度もあった。恵那にも、彼と一つになりたい気持ちは、あった。だが、目に見えないもの――臭いが、それを阻んだ。
もともと恵那は、鼻が利き、盛りのついた男子の臭いは苦手だった。
裕太は、小まめにデオドランドシートで汗を拭いているため、普段はそれ程、臭わない。
だが、アルコールが入ったときやニンニク類を食べた後、そして体温が上がったときには臭いが強くなり、その中にそれを嗅ぎ当てたら最後、「もう無理」で、恵那は裕太を全力で拒否してしまう。
それでも、彼が好きな気持ちに変りはない。
そこで、香りの良い洗剤やら柔軟剤やらを布類の洗濯に使ったり、部屋にアロマオイルを焚いてみたりと工夫を凝らしてみたのだが、それは逆にその臭いを際立たせるだけで、意味を成さなかった。
それでも頑張って受け入れようとしたが、息を詰め、身を固くしてそのときを待つ恵那の姿に裕太が萎えてしまい、深い溜息とともに二人の挑戦は終わりを迎える。
そんなことが繰り返されるうちに、裕太に諦めの色が濃くなり、デートのお誘いも、めっきりと減った。
――もう私たちが一つになることはないのかな……。臭いが嫌で出来ないなんて、病的すぎる。これでは、結婚なんて、絶対、無理。もう、裕太さんのことは、諦めた方がいいのかな……。
そんなことを考え、恵那が一人の部屋で鬱々と過ごすようになった頃、事件は起きた。
真新しいコンタクトレンズを付けたときのように、世界が明るく、色鮮やかに見えるようになった。
何を見ても、何をしても心が弾む。
それは恵那の装いや行動にも表れ、見る者の目を和ませた。
「若いっていいね~。いるだけで、心が軽くなるよ」
久しぶりに訪れた営業部のフロアで、恵那を目敏く見つけ、言葉をかけた男子社員に同調し、「新しい環境が合うみたいね。今の方が断然いいよ。竹井さん、過去のことは忘れて、そのままの自分でやって行こう?」とエールを送る女子社員。
二人は共にアラサー。就職を機に親元を離れ、都会で一人、暮らす恵那を気遣ってくれる、大切な先輩たちだ。
(新しい環境……)
恵那の心が、ぴくん、と跳ねた。
(やっぱ、皆、知っているよね。裕太さんとのこと。大騒ぎになったから・・・・・・)
フロアの片隅に、目をやる。そこに彼は、いなかった。
竹井恵那、東証スタンダード上場のスポーツアパレルメーカーで働く25才。
本社営業部から海外事業部開設準備室に異動になり、室長の指示の下、資料集めとその整理に勤しんでいるところだ。
容姿は平凡。入社三年目の今でも、定番のダークスーツに薄化粧、髪もゴムで一つに結わえたきりといった就活生のお手本のような格好で出社する純朴娘だが、そんな恵那にも出会いはあった。
本宮裕太、27才。そつなく仕事をこなす営業マン。
爽やかでリーダーシップがとれる彼に、入社後すぐに声をかけられ、食事デートやお花見デートを重ねる内に好きになり、互いの家を行き来する仲になった。
でも、どうしても一線を越えられなくて……。
裕太から求められたことは何度もあった。恵那にも、彼と一つになりたい気持ちは、あった。だが、目に見えないもの――臭いが、それを阻んだ。
もともと恵那は、鼻が利き、盛りのついた男子の臭いは苦手だった。
裕太は、小まめにデオドランドシートで汗を拭いているため、普段はそれ程、臭わない。
だが、アルコールが入ったときやニンニク類を食べた後、そして体温が上がったときには臭いが強くなり、その中にそれを嗅ぎ当てたら最後、「もう無理」で、恵那は裕太を全力で拒否してしまう。
それでも、彼が好きな気持ちに変りはない。
そこで、香りの良い洗剤やら柔軟剤やらを布類の洗濯に使ったり、部屋にアロマオイルを焚いてみたりと工夫を凝らしてみたのだが、それは逆にその臭いを際立たせるだけで、意味を成さなかった。
それでも頑張って受け入れようとしたが、息を詰め、身を固くしてそのときを待つ恵那の姿に裕太が萎えてしまい、深い溜息とともに二人の挑戦は終わりを迎える。
そんなことが繰り返されるうちに、裕太に諦めの色が濃くなり、デートのお誘いも、めっきりと減った。
――もう私たちが一つになることはないのかな……。臭いが嫌で出来ないなんて、病的すぎる。これでは、結婚なんて、絶対、無理。もう、裕太さんのことは、諦めた方がいいのかな……。
そんなことを考え、恵那が一人の部屋で鬱々と過ごすようになった頃、事件は起きた。