【二度目の恋は、突然に】片山聖ハイスペ総務部長が推す相手は、削り節の香り
煽る片山部長
「恵那!やめろ。恥ずかしいぞ。匂い嗅ぐなら俺にしろ」
裕太は、縋り付く女を脇へ押しやり、駆け寄るが、恵那は反応しない。
ずきりと胸が痛んだ裕太は、アプローチを変えた。
「そんなにいい匂いがするの?どれ」と言って、井ノ原の匂いを自分も嗅ごうとする。
井ノ原は、慌てて立ち上がり、這々の体で逃げ出した。
(一体、何なんだよ、あの女)
開設準備室に戻った井ノ原は、溜息と共に頭の中から雑念を追い払うと、PCを立ち上げメールチェックをし始める。部屋の中には、一人分のワークスペース。井ノ原以外のスタッフは、まだ決まっていない状態だった。
作業に没頭していると、片山が、ふらりとやって来た。
「ねえ、さっきの子、アシスタントにしない?」
「どういうことだ?」
「いやさあ――」
片山の説明によれば、先刻の修羅場は、誤解から生じたものだった。営業部の男女、本宮と竹井が交際をしていて、でも、それを周囲に隠していたため、本宮に気があった総務部の女が、自分こそ彼女と思い込んでいた。ところが二人の交際が明るみに出て、略奪されたと感じた女が、竹井をロビーで見かけて突撃したと言うわけだ。
「あの三人を、顔合わさないようにする必要があってさ。合理的配慮ってやつ?竹井には、警察に被害届を出すように言った。会社が二人を罰するのは難しいから。そうなると、それを取り下げさせようと二人が動くだろ。だから」
「なるほど」
「それに、竹井は、お前のこと気に入ったみたいだし。『嫁さん欲しい』って言ってたよな?貰えば?」
「は?何、言って・・・・・・」
井ノ原は、顔を赤らめ、言葉を濁す。脈有りと見てとった片山は、畳みかけた。
「今、竹井を病院に連れて行ってる。めまいがするみたいだから、入院することになるかも知れない。で、その後なんだけど、彼女、一人暮らしなんだって。ってことで、ボディーガードから始めようか」
「ボディーガード?」
「そ。あの二人を近づけないようにね。当面は、送り迎えをして、それが面倒になってきたらルームシェア?」
「は?それって……」
「結婚前のお試し同居?ってやつ?今時、みんなやってるよ。お互い大人なんだし、構わないさ。向こうは、男と縁切りたいみたいだし?だから、どうぞご自由に」
困惑する井ノ原に、ぐいぐい迫る片山。学生時代から続く、お決まりのパターン。
「ハイヤー手配するから、それで朝晩、送迎して。部屋の前まで、行くんだよ。あと、社内でも出来るだけ一緒にいろ。そうすれば、おのずと道は開ける」
片山は、有無を言わさない綺麗な笑顔を見せた。その圧の凄まじさ。井ノ原は首を縦に振るしかなかった。
片山が言う「道」とは、「結婚への道」。それには、ハートがいっぱいの、ふわふわしたイメージがあった。
だが、実際に、その道を歩み始めて井ノ原が感じたのは、それは「修行道」に近いということだった。
色々ありすぎて病んだのか、素なのか分からないが、恵那は、井ノ原にくっついて離れない。送迎時でもオフィスでも、吸い寄せられるように井ノ原のところに来ては、肌の臭いを嗅ぎ、和んでいる。
だが、彼女が心から安心するその行為は、井ノ原には拷問でしかなかった。それに反応して暴れ出す、男の性。
――何なの、これ?タラシ?小悪魔?俺、前世で何か悪いことした?
数日間は何とか堪えた井ノ原だが、片山が時折やって来て麗しい笑顔で煽っていくものだから、早々にギブアップし、勝負をかけた。
「あなたとの結婚を考えている。体の相性を確かめたい」
そう言って、恵那をホテルへ誘った。
恵那は、断らなかった。大人しく、窓から都会の夜景が見えるシティホテルに付いてきた。そして、井ノ原に身を任せた……。
裕太は、縋り付く女を脇へ押しやり、駆け寄るが、恵那は反応しない。
ずきりと胸が痛んだ裕太は、アプローチを変えた。
「そんなにいい匂いがするの?どれ」と言って、井ノ原の匂いを自分も嗅ごうとする。
井ノ原は、慌てて立ち上がり、這々の体で逃げ出した。
(一体、何なんだよ、あの女)
開設準備室に戻った井ノ原は、溜息と共に頭の中から雑念を追い払うと、PCを立ち上げメールチェックをし始める。部屋の中には、一人分のワークスペース。井ノ原以外のスタッフは、まだ決まっていない状態だった。
作業に没頭していると、片山が、ふらりとやって来た。
「ねえ、さっきの子、アシスタントにしない?」
「どういうことだ?」
「いやさあ――」
片山の説明によれば、先刻の修羅場は、誤解から生じたものだった。営業部の男女、本宮と竹井が交際をしていて、でも、それを周囲に隠していたため、本宮に気があった総務部の女が、自分こそ彼女と思い込んでいた。ところが二人の交際が明るみに出て、略奪されたと感じた女が、竹井をロビーで見かけて突撃したと言うわけだ。
「あの三人を、顔合わさないようにする必要があってさ。合理的配慮ってやつ?竹井には、警察に被害届を出すように言った。会社が二人を罰するのは難しいから。そうなると、それを取り下げさせようと二人が動くだろ。だから」
「なるほど」
「それに、竹井は、お前のこと気に入ったみたいだし。『嫁さん欲しい』って言ってたよな?貰えば?」
「は?何、言って・・・・・・」
井ノ原は、顔を赤らめ、言葉を濁す。脈有りと見てとった片山は、畳みかけた。
「今、竹井を病院に連れて行ってる。めまいがするみたいだから、入院することになるかも知れない。で、その後なんだけど、彼女、一人暮らしなんだって。ってことで、ボディーガードから始めようか」
「ボディーガード?」
「そ。あの二人を近づけないようにね。当面は、送り迎えをして、それが面倒になってきたらルームシェア?」
「は?それって……」
「結婚前のお試し同居?ってやつ?今時、みんなやってるよ。お互い大人なんだし、構わないさ。向こうは、男と縁切りたいみたいだし?だから、どうぞご自由に」
困惑する井ノ原に、ぐいぐい迫る片山。学生時代から続く、お決まりのパターン。
「ハイヤー手配するから、それで朝晩、送迎して。部屋の前まで、行くんだよ。あと、社内でも出来るだけ一緒にいろ。そうすれば、おのずと道は開ける」
片山は、有無を言わさない綺麗な笑顔を見せた。その圧の凄まじさ。井ノ原は首を縦に振るしかなかった。
片山が言う「道」とは、「結婚への道」。それには、ハートがいっぱいの、ふわふわしたイメージがあった。
だが、実際に、その道を歩み始めて井ノ原が感じたのは、それは「修行道」に近いということだった。
色々ありすぎて病んだのか、素なのか分からないが、恵那は、井ノ原にくっついて離れない。送迎時でもオフィスでも、吸い寄せられるように井ノ原のところに来ては、肌の臭いを嗅ぎ、和んでいる。
だが、彼女が心から安心するその行為は、井ノ原には拷問でしかなかった。それに反応して暴れ出す、男の性。
――何なの、これ?タラシ?小悪魔?俺、前世で何か悪いことした?
数日間は何とか堪えた井ノ原だが、片山が時折やって来て麗しい笑顔で煽っていくものだから、早々にギブアップし、勝負をかけた。
「あなたとの結婚を考えている。体の相性を確かめたい」
そう言って、恵那をホテルへ誘った。
恵那は、断らなかった。大人しく、窓から都会の夜景が見えるシティホテルに付いてきた。そして、井ノ原に身を任せた……。