札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~
オリヴィアの声に、父は大きく肩を揺らした。
父は覚悟を決めたように拳を握ると医師を呼びに向かうと出て行った。
軽々と母を抱え上げたオリヴィアは寝室へと運ぶ。

汗で張りついた前髪をわけてから、布で拭うと瞼が開く。
声は届かなかったが『ごめんなさい』と、唇が動いた。


「お母様、心配しないで。今は休んで……」


頷いた母はゆっくり瞼を閉じて眠ってしまった。
目の下には深いクマが刻まれている。
なんとかお金を工面しようと、夜遅くまで内職をしていたのをオリヴィアは知っていた。

(お母様、かなり無理をしたんだわ……)

今すぐに父を五十発ほど殴りたい気分だが、父も母に楽にさせたいと純粋な気持ちで事業に取り組んでいる。
誰よりも成功を願っているのは彼なのだ。
それにオリヴィアも領民に慕われて、国を守りきった父を尊敬していた。

オリヴィアは立ち上がって、自室へと小走りして向かう。
医師が来るまでに用意するものがあるからだ。

(内緒で貯めていたお金は今使うべきよね……!)

幼い頃から少しずつ貯めていたお金は、自分の夢のためにと思っていた。令嬢の暮らしに憧れていたオリヴィアが唯一抱いた夢。
それは平和でお金に困らない普通の結婚をすること。
そのためのお金だったが大切な母のためだ。
たとえ夢や自分の結婚が遠のいても家族のことは捨てられない。

オリヴィアは母が寝ている寝室へと向かった。
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