〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する


「手伝います。心臓血管外科です」

 顔を向けて目に入った鼻筋の通った整った横顔にハッとする。

 この騒ぎを聞きつけてやってきてくれたドクターのようだ。ありがたい。

 スーツの姿を見る限り、私と同じように私用でこのホテルを訪れていたのだろう。

「助かります。胸痛、冷汗あり、脈は不整っぽいです。意識レベルも低下。呼吸ほぼなし」

「CPR開始で」

 CPR──心肺蘇生法。呼吸が止まりかけている今、迷わず始めなくてはならない。

「一、二、三、四……」

 医師の男性はすぐさま胸骨圧迫を開始する。

「AEDもいこう」

「はい!」

 彼の傍らにはAEDが置かれている。この騒ぎを知って用意してきてくれたようだ。

 心臓血管外科のドクターだと言うし、専門医が現れたことが心強い。

 彼は胸骨圧迫をしながら、周囲のホテルスタッフに「衣服を切るためのハサミをお願いします」と指示を出す。
その横で手早くAEDを開けていく。

 ホテルスタッフが持って来てくれたハサミで、心臓血管外科医はYシャツの中に着ていた下着を切る。

 AEDからパッドを取り出し差し伸べた。

 彼は手早く患者の胴の右上、左下とパットを貼りつけていく。

『体に触れないでください。心電図を解析しています──』

 AEDからアナウンスが始まり、自分含め男性に触れていないかを目視する。

 緊張感が伝染するように、集まっているスタッフたちを始め現場はしんと静まり返った。

『電気ショックが必要です』

 張り詰めた空気の中、AEDから判定が出る。

 心臓血管外科医が再度周囲を確認し「離れて、誰も患者に触れないように」と注意を促す。

 そして、AEDから電気ショックが送られた。男性の体がわずかに動く。

『直ちに胸骨圧迫を再開してください』

 再びCPRを続ける指示が入り、心臓血管外科医が男性の上から胸骨圧迫を再開する。

 そうこうしているうちに救急車のサイレンが近づいてきて、要請を受けた救急隊員たちが駆け付けた。

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