〝選ばれるはず〟だった令嬢がいるのに、彼は私と契約結婚する
「四~五十代男性、突然の胸痛後に意識消失。ホテルスタッフの目撃あり」
やって来た救急隊員のひとりに状況を説明する。
CPR中の心臓血管外科医に救急隊員が「引継ぎます」と声をかけ交代した。
「CPR開始約二分後、AED一回ショック済み。呼吸なし、脈触れず」
患者から離れた彼は、私が報告をした救急隊員に簡潔に報告をする。
「了解です。白河先生、勤務外に居合わせたんですか」
救急隊員はテキパキと搬送準備に動きながら心臓血管外科医の彼に声をかける。
白河先生……?
「まぁ、そんなところです。恐らく、心室細動かと。お願いします」
ストレッチャーに乗せられた男性に固定バンドがつき、酸素とモニターも用意される。
「搬送します」
救急隊員の声でストレッチャーが動き出し、自然とその後を追ってホテル玄関前につけられた救急車まで続く。
同じように救急車まで追ってきた心臓血管外科医が、私のとなりで「頼みます」と呟いたのが聞こえた。
ドアが閉まり、サイレンを光らせた救急車が走り出す。ホテルのロータリーから開かれた門を出ていったのを見送った。
徐々にサイレンの音が小さくなっていくと、全身から力が抜けていく。
我に返ったようにとなりに立つ心臓血管外科医に頭を下げた。
「ありがとうございました」
「いえ」
「戻ると、いいですね」
搬送時は油断できない状況のままだった。搬送中に心拍が再開すればいいけれど……。
「あとは、向こう次第だな」
「はい……」
「小宮山さん、だよね」
「えっ?」
なんの前触れもなく名前を口にされ、上背のある彼の顔を見上げる。
微笑を浮かべる薄い唇に、横顔が美しいと感じた高い鼻梁。アーモンド型の切れ長の目と視線が重なりどきりとする。
端整な顔立ちをじっと見つめ、「あっ」と声が漏れた。